かわ)” の例文
平吉という男が裏から出て来て、庭に水を打った。「まだそうかわいていないんだから、好い加減にしておおき」と母が云っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一切のあぢはひは水をらざれば其の味を発する能はず。人若し口の渇くこと甚しくして舌のかわくこと急なれば、熊のたなそこも魚のあぶらみも、それ何かあらん。
(新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
第十 常居ゐま濕氣しめりけすくな日當ひあたりよくしてかぜとほやうこゝろもちし。一ヶねん一兩度いちりやうどかなら天井てんじやうまたえんしたちりはらひ、寢所ねどころたかかわきたるはうえらぶべきこと
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
博士は、岩うてなのそばへひざまずいて掌で水をすくって飲んだ。すこしばかり硅素を含んだ氷のような水が、カラカラにかわききった咽喉の奥に痛烈にしみとおっていった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
且つ浅草区一帯の地の卑湿にしてかわき難きも、此の一水路によりて間接に乾燥せしめらるること幾許いくばくなるを知らざれば、浅草区に取りては感謝すべき水路なりといふべし
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこで二人は濡れていた着物を脱いで石の上に乾したが、午近くなってやっとかわいた。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
東に吹く風は再び西に吹き来る、気かわくところに雲自からあつまるなり、雲は雨となり、雨は雲となる、是等のもの一として宇宙の大調和の為に動くところの小不調和にあらざるはなし。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
感情の激昂げきかうから彼の胸は大波のやうに高低して、喉は笛のやうに鳴るかと思ふ程かわき果て、耳を聾返つんぼがへらすばかりな内部の噪音さうおんはゞまれて、子供の声などは一語も聞こえはしなかつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
そはわが祕事ひめごとなり。かく答へて我は彼瓶を受け、かわきたる咽を潤したり。
はての無いかわいた砂原を
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かつ浅草区一帯の地の卑湿にしてかわきがたきも、この一水路によりて間接に乾燥せしめらるゝこと幾許なるを知らざれば、浅草区に取りては感謝すべき水路なりといふべし。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)