熊野ゆや)” の例文
琵琶と琴の合奏あわせはむずかしい。——が、御諚なればと、二人は懸命に、そのとき“熊野ゆや”のふしかなでて歌った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもてをつけず熊野ゆやの舞一くさりあり。久次の牢輿ろうごしにて連れ行かれしを見送り「まことや槿花きんか一日のさかえ、是非もなき世の盛衰ぢやなあ」との白廻せりふまわしもねうちあり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
演壇では、筒袖つつそでの少年が薩摩さつま琵琶びわいて居た。凜々りりしくて好い。次ぎは呂昇の弟子の朝顔日記浜松小屋。まだ根から子供だ。其れから三曲さんきょく合奏がっそう熊野ゆや
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
牛島の藤は、樹齢千年、熊野ゆやの藤は、数百年ととなえられ、その花穂の如きも、前者で最長九尺、後者で五尺余と聞いて、ただその花穂にのみ、心がおどる。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ある日の夕べ、遠江とおとうみ池田いけだ宿しゅくに泊ることとなり、その日は宿の長者、熊野ゆやの娘、侍従の許に宿をとった。
金春こんぱる流の名人、桜間左陣さくらまさじん翁が、見込みのある弟子として骨を折っておしえているというこの麗人が、春日しゅんじつの下に、師翁の後見で「熊野ゆや」を舞うというのであった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのおさらいの日にお遊さんは髪をおすべらかしにして裲襠うちかけを着てこうをたいて「熊野ゆや」をきました。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どこまでも歩行あるけば歩行くほど土塀がうたいます——余り不思議だから、熊野ゆや、とかに謡いかえると、またおなじように、しかも秘曲だというのを謡うもんですから
西海さいかいの合戦にうち負け、囚はれて鎌倉へ下るときに、この天竜川の西岸、池田の宿に泊つて、宿の長者熊野ゆやむすめ、侍従の許に、露と消え行く生命の前に、春の夜寒の果敢ない分れを惜しんだことは
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
聲量の極めて乏しい女の聲で熊野ゆやを稽古してゐるのであつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
句会終りて、観世地にて「熊野ゆや」。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
らぬことであろう。拙者はただ、そなたの語る平曲の熊野ゆやを聴いていただけのこと、それ以上なにを聴こう」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この芸妓げいしゃは、昨夜ゆうべ宴会えんかい余興よきょうにとて、もよおしのあった熊野ゆやおどりに、朝顔にふんした美人である。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたれる歳次さいじ治承じしょう元年ひのととり、月の並びは十月とつき二月ふたつき、日の数、三百五十余カ日、吉日良辰りょうしんを選んで、かけまくも、かたじけなく、霊顕は日本一なる熊野ゆや三所権現、飛竜大薩埵ひりゅうだいさった教令きょうりょうのご神前に