漸々ぜんぜん)” の例文
人間の脳髄は胎内発生の初期より成人になるまでの間に漸々ぜんぜん発達するものゆえ、これにも無数の階段があるが、今その中から便宜上
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
しかし吾人が客観的描写に興味を有してくると、漸々ぜんぜんこの散漫と滅裂と神秘を妙に思わないような時機が到着しはせまいかと思われます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
漸々ぜんぜん不活溌となり、なおそのままにちゃっておけば、周囲には充分の食物があるとしても、ついには多く分裂したものが全く死滅してしまう。
しかるに、その後ち官家の制度も漸々ぜんぜんと具備するようになり、官から評定所を建築し、飲饌いんせんも出し、給仕には御城の坊主を用いるようになったのである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
しかして進化というはすでに発芽すべき力がもともと含蓄がんちくされているものが、漸々ぜんぜんに働くことを称するとおなじく
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ビノ呈シ方、陶酔ヘノ導キ方、漸々ぜんぜんニエクスタシーヘ引キ上ゲテ行ク技巧ノ段階、スベテハ彼女ガソノ行為ニ渾身こんしんヲ打チ込ンデイル証拠デアッタ。………
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
故人までも合せれば漸々ぜんぜんとその数が多くなって来て、ついには同じ通称のものがそちらこちらにできて来る、いわんや官名を持たぬただの太郎次郎に至っては
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
また伎楽ぎがくを奏して世に珍しき塔供養あるべきはずに支度とりどりなりし最中、夜半の鐘の音の曇って平日つねには似つかず耳にきたなく聞えしがそもそも、漸々ぜんぜんあやしき風吹き出して
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
漸々ぜんぜん話し込んでみると元来傾向が同じであったものだから犬猿どころか存外ぞんがい話が合うので、喧嘩はそう、むしろ一緒にやろうじゃないかという訳になって、爾後じご大分心易くなった。
しばらくすると朗々ほがらかんだ声で流して歩く馬子唄まごうたが空車の音につれて漸々ぜんぜんと近づいて来た。僕は噴煙をながめたままで耳を傾けて、この声の近づくのを待つともなしに待っていた。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もはや長く船内に留まるあたわず、逃ぐるように巨船の甲板上に出て見れば、余の帆船はすでにことごとく一団の火焔となり、火勢はその絶頂を過ぎてこれより漸々ぜんぜん下火にならんとす
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
しかし実ができなくても、その繁殖はんしょくにはあえて差しつかえがないのは、しあわせな草である。それは地中にある球根(学術上では鱗茎りんけいと呼ばれる)が、漸々ぜんぜんに分裂して多くの仔苗しびょうを作るからである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
今日世界のありさまを見るに、文明の高い種属は日々膨脹拡大し、文明の低い種族はそのため漸々ぜんぜん圧迫せられて滅亡に傾いている。
戦争と平和 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
この両面が漸々ぜんぜん右と左へ分れて発展する結果ついには大変違ったものになりうると云う事を説明したいと思います。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいはごく上等に出来たとしても、話頭はなし漸々ぜんぜんげて自分の痛いところより遠く離さんとし、然らざれば正反対に自分の弱点を弁護するごとき議論や物語をしたりする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
また同書巻八志太しだ葉梨はなし村大字中藪田なかやぶたの沼、アワラともいう。この村の地左右山にて中央には沼あり。いにしえはこの村すべて沼にてありしに、二百年来漸々ぜんぜんに開墾したりとある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
代が重なる間には各種ともに生存に適する性質が漸々ぜんぜん発達進歩し、先祖に比較してはいっそう進化したものとなる理屈である。
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
その偽善が社会の変化で、とうとう張り通せなくなった結果、漸々ぜんぜん自己本位を思想行為の上に輸入すると、今度は我意識が非常に発展しすぎてしまった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
漸々ぜんぜんと増加して行ってついに名字の固着した今日の状態を養うに至ったが、一つの原因としては、吉野朝廷時代に地方地方の嫡庶ちゃくしょの争いが、この機会を利用して宮方・武家方に立ち分れ
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
知力の進んだ動物では本能は漸々ぜんぜん少なくなり、知力の最も発達した人間にいたれば、本能はただわずかに生まれてただちに乳を求めて吸うことと
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
その偽善が社会の変化で、とう/\張り通せなくなつた結果、漸々ぜんぜん自己本位を思想行為の上に輸入すると、今度は我意識が非常に発展し過ぎて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
実は最初はなはだ簡単な構造を有する先祖から分かれくだったもので、つねに漸々ぜんぜん変化し、代を重ねるにしたがい、変化も次第にいちじるしくなって
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
然しこの姉までが、今の自分を、父や兄と共謀して、漸々ぜんぜん窮地にいざなって行くかと思うと、さすがにこの所作をただの滑稽として、観察する訳には行かなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一代ごとに漸々ぜんぜん人間の種族を改善してゆこうという考えに基づいたもので、一言で言えば、生物学上の理を人類社会に応用しようと企てるのである。
民種改善学の実際価値 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
かう云ふ問答を二三度繰り返してゐるうちに、いつの間にか半月許り経過たつた。三四郎の耳は漸々ぜんぜんりものでない様になつて来た。すると今度は与次郎の方から、三四郎に向つて
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
子宮の中にとどまり、母体からの滋養分に養われ、最初きわめて小さかった胎児も漸々ぜんぜん成長し、月満ちて生まれるころにはすでに相応な大きさの赤子となる。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
森本に始まって松本に終る幾席いくせきかの長話は、最初広く薄く彼を動かしつつ漸々ぜんぜん深く狭く彼を動かすに至って突如としてやんだ。けれども彼はついにその中に這入はいれなかったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かような場合には眼は漸々ぜんぜん退化してついには今日洞穴内に見るごとき盲目の魚ばかりとなってしまう。
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
こういう問答を二、三度繰り返しているうちに、いつのまにか半月はんつきばかりたった。三四郎の耳は漸々ぜんぜん借りものでないようになってきた。すると今度は与次郎のほうから、三四郎に向かって
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初めの疑問も漸々ぜんぜん解けて今ではさらに一歩進んだ先の謎を解こうとつとめる階段に達したのである。
人道の正体 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
すなわちいかなる順序に意識を連続させようか、またいかなる意識の内容を選ぼうか、理想はこの二つになって漸々ぜんぜんと発展する。後に御話をする文学者の理想もここから出て参るのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
精神ともに平均の状態を漸々ぜんぜん高めてゆくことをはかると同時に、十万人に一人とか百万人に一人とか、きわめてまれに現われる異常の天才についてもよくその系統を調べ
民種改善学の実際価値 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
自分は彼の痼疾こしつが秋風の吹きつのるに従って、漸々ぜんぜん好い方へ向いて来た事を、かねてから彼の色にも姿にも知った。けれども今の自分と比較して、彼がこうゆったり構えていようとは思えなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まず脊椎動物の中から若干の例を取り出して、その大脳を比較してみるに、最下等のものから最高等の人間にいたるまで、階段的に漸々ぜんぜん進みきたった跡が明らかに知れる。
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
そうしていつなんどき僕の最も恐れる直接の談判を、千代子に向って開かないとも限らないように、漸々ぜんぜん形勢を切迫させて来たのである。僕は思い切って、この危機を一帳場ひとちょうば先へ繰り越そうとした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただしこの場合においても、団体が大きくなるにしたがい以上のごとき関係は漸々ぜんぜん不明瞭になり、ついには良心は全く一種の本能として心の底に残るだけとなってしまう。
動物界における善と悪 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
漸々ぜんぜん perceptual の叙述に縁がついて参ります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
果物屋の亭主が最大から最小まで漸々ぜんぜん移りゆく数多くの林檎りんごを自分の見計らいで、これは一個六銭の部類、これは一個七銭の部類と便宜幾組かに分けるのも、鉄道の係りが
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
他方においては幾千万の人間は漸々ぜんぜん貧困となりうえに迫られてはだんだん安い給金にも甘んじて、牛馬のごとくに労働せざるを得ず、ついには露命をつなぐことさえ容易でなくなる。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
かくしてこそ、始めて物の本来の性質と、その進歩するに伴い漸々ぜんぜん付け加わってこれを複雑ならしめた部分との関係も知れ、したがって全部を誤りなく了解し得るにいたるのである。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
団体生活の進むに伴のうて利己心から漸々ぜんぜん転化しきたった第二的性質で、個体を標準としてこそ他を利する心であるが、団体を標準として論ずれば、やはり利己心の一部分に過ぎぬのである。
人道の正体 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
苔虫類は芽生がせいで繁殖してつねに周囲に向こうてふえてゆくゆえ、戦線に立つものはいずれも屈強な壮年者ばかりであるが、国の内部に留まっている老年者の中にはむろん漸々ぜんぜん衰弱して死ぬ者もある。
理想的団体生活 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
今後諸外国がわれに対する所行によって漸々ぜんぜん明瞭になるであろう。
人類の生存競争 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)