水飴みずあめ)” の例文
それも縁であろう。越後巫女みこは、水飴みずあめと荒物を売り、軒に草鞋わらじつるして、ここに姥塚うばづかを築くばかり、あとをとどめたのであると聞く。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水飴みずあめが口のはたにくっついていくらなめてもべたべたして気色が悪いと、覚めたあとまでなお口の回りを指先でこすったりした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
見馴れない四十恰好がっこうの女が、姉のうしろから脊中せなかさすっている傍に、一本の杉箸すぎばしを添えた水飴みずあめの入物が盆の上に載せてあった。女は健三に会釈した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水飴みずあめ色のうららかな春の日の中に両岸の桜は、貝殻細工のように、公園の両側に掻き付いて、漂白の白さで咲いている。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それでも敷居しきいをまたぐと土間のすみのかまどには火が暖かい光を放って水飴みずあめのようにやわらかくしないながら燃えている。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
料理場を飛び出すと、まるで巫女ウイッチのように宙を飛んで家へ駆けてゆき、お台所から鶏卵と水飴みずあめ乾杏子ほしあんずをひっさらって、えらい勢いで駆け戻って来ました。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あとは重湯や水飴みずあめを与えるのだが、それを薄めたりあたためたりする加減が、男の手ではなかなかうまくゆかないし、襁褓むつきや肌着の取替え、病人の看護、炊事、洗濯など
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
水飴みずあめなどを与えてもいいという許しが、順に一日か二日おいては出るころであったが、その以前でも飲食物その他何によらず、患者はおそろしく意地が曲っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今まで運動にも出ていたものがバッタリと出なくなり、ずっと寝込んでしまうようになると、その監房には看病夫が割箸に水飴みずあめをまきつけたのを持って入る姿が見られた。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
暗黒の底に水飴みずあめのように流れ拡がる夥しい平炉の白熱鉱流は、広場の平面に落ち散っている紙屑、藁屑わらくず鋸屑おがくず、塗料、油脂の類を片端から燃やしつつグングンと流れ拡がって行く。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
アメガタ 水飴みずあめは早く起り、これを固形にする技術は久しく普及しなかった。飴形という言葉は、後者が子供にも親にも珍重せられた名残で、西国は一般にこの名をもって今も行われている。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
水飴みずあめ 春 第二十六 名物
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
歌はすこぶる悠長ゆうちょうなもので、夏分の水飴みずあめのように、だらしがないが、句切りをとるためにぼこぼんを入れるから、のべつのようでも拍子ひょうしは取れる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜なかの分は片口に絞って置いて呉れる、それを温めたり水飴みずあめを溶いたりして与えた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
水飴みずあめのごとダラアと前に落ちようとするけに、元の肩の上へ引き戻し引き戻ししよったらそのうちに済んだけに、思わずアーメンと云うたら、よだれがダラダラと袴へ落ちた、まあだ変な気持がする
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「寒いから部屋をあたためます」と云ったなり、上から煖炉の中を見下みおろした。火は薄い水飴みずあめの色に燃える。あいむらさきが折々は思い出したように交って煙突のうちのぼって行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)