歩々ほほ)” の例文
貪欲界どんよくかいの雲はりて歩々ほほに厚くまもり、離恨天りこんてんの雨は随所ただちそそぐ、一飛いつぴ一躍出でては人の肉をくらひ、半生半死りては我とはらわたつんざく。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
色は黒いが、眉目すずやかで、両の耳に珠をかけ、歩々ほほふうにもおのずからな人品が見られ、どことなく、ゆかしい人柄だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち見る詰襟白服の一紳士ステッキをズボンのかくしにつるして濶歩す。ステッキの尖歩々ほほ靴のかかとに当り敷石を打ちて響をなす事恰も査公さこう佩剣はいけんの如し。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのたたかひの如何に酷烈を極めたるか、如何に歩々ほほ予を死地に駆逐したるか。予は到底ここに叙説するの勇気なし。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
道は雲仙の山脚さんきゃくが海に落ちこんでいる急峻きゅうしゅんな部分に通じているので、なり険しい絶壁の上を、屡々しばしば通らなければならぬが、そのために風致は歩々ほほ展開して行く。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
清国敗北の風評しきりに聞えければ、ハリスはこれを奇貨とし、歩々ほほまり、遂に安政四年二月に至っては、当時の閣老堀田備中守をして、外国人接待応接の式方を改めこれを優遇せしめ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その歩々ほほおとせし血は苧環をだまきの糸を曳きたるやうに長くつらなりて、畳より縁に、縁より庭に、庭より外に何処いづこまで、彼は重傷いたでを負ひて行くならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのうちに、諸官はみな、御車寄みくるまよせへなだれていった。つづいて後醍醐も准后も立座して、廊を並んで歩みだした。そのとっさ、歩々ほほのあいだに、帝は、廉子の横顔をチラと見て言った。
すなはち橋を渡りてわづかに行けば、日光くらく、山厚く畳み、嵐気らんきひややか壑深たにふかく陥りて、幾廻いくめぐりせる葛折つづらをりの、後には密樹みつじゆ声々せいせいの鳥呼び、前には幽草ゆうそう歩々ほほの花をひらき、いよいよのぼれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その手には左右二つのカスタネットをかくし持ち、戦う鳥となり、柳の姿態しなとなり、歩々ほほ戛々かつかつ鈴々れいれい抑揚よくよう下座げざで吹きならす紫竹の笛にあわせ“開封かいほう竹枝ちくし”のあかぬけた舞踊のすいを誇りに誇る。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)