まさ)” の例文
前に大溝の幅広い溝板どぶいたが渡っていて、いきでがっしりしたひのきまさ格子戸こうしどはまった平家の入口と、それに並んでうすく照りのある土蔵とが並んでいた。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と見ると文治郎水色に御定紋染ごじょうもんぞめ帷子かたびら、献上博多の帯をしめ、蝋色鞘ろいろざやの脇差、其の頃流行はやったまさの下駄、さらしの手拭を持って、腰には金革きんかわの胴乱を
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かしら籐表とうおもてを打った、繻珍しゅちんの鼻緒で、桐のまさという、源次が私生児を引放ひっぱなして、片足打返して差出した。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
箱は、まさの細かい、桐の老木で作ったものであり、天国と書かれた書体も、墨色も、古くみやびていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
マンションともいえるような宏壮な洋館をしめ、伊那の奥から引いてきたまさ葺の山家やまがにひきこもり、メンバという木の割籠わりごからかき餅をだし、それを下物さかなにして酒を飲みながら
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
土間からすぐ二階にかけた階段はしごだんを上ろうとして、ふと上り口に脱ぎすてた男女の下駄げたに気がつくと、幅の広い、よくまさの通った男の下駄はどうも柳沢の下駄に違いない。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
みがき上げた、まさの柱に象牙ぞうげへそをちょっと押すと、しばらくして奥の方から足音が近づいてくる。がちゃとかぎをひねる。玄関の扉は左右に開かれて、下は鏡のようなたたきとなる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病牀にひとりつれ/″\を慰めむと、まさといふ紙を求めて四方の壁をいろどりしが
長塚節歌集:3 下 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「その上、庇の脇差は、投り上げたのでなくて、上から滑り落したのだ。二階の窓の敷居に、少しばかり血が付いてゐるし、屋根のトントンきのまさにも、血の跡があり、滑り留つたところが、庇の雨樋あまどひの上だ」
前に大溝おおどぶの幅広い溝板が渡つてゐて、いきでがつしりしたひのきまさの格子戸のはまつた平家の入口と、それに並んでうすく照りのある土蔵とが並んでゐた。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
白く千鳥を飛ばしたの絹縮みの脊負上しょいあげ。しやんとまった水浅葱みずあさぎおなじ模様の帯留で。雪のような天鵞絨とうてんの緒を、初霜薄き爪先つまさきかろふまえた南部表なんぶおもてまさの通った船底下駄ふなぞこげた
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)