本懐ほんかい)” の例文
旧字:本懷
「長年のご辛苦察し入る。が、必ずその辛苦は報われよう。きょうはまだ本懐ほんかいの日ともいえぬ、唯その事の緒についたのでござるが」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千乗の国の盟をも信ぜずして、ただ一人の言を信じようという。男児の本懐ほんかいこれに過ぎたるはあるまいに、なにゆえこれを恥とするのかと。子路が答えた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
やがては武門の棟梁とうりょうともなるように心がけてこそ武士たるものゝ本懐ほんかいだのにとっしゃって、とう/\その姫ぎみを、久政公へは御そう談もなしに里へかえしておしまいになりました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
父の伝三の打たれた年からやっと二十三年目に本懐ほんかいを遂げようとするのである。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
唯、生きていることだけがかろうじてゆるされたことの全部であるといってもいい。考えようによっては男子の本懐ほんかいでもあるが、お父さんは、この難境なんきょうに突き落されることによって発奮はっぷんした。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ぼくは、その風景を、男子の本懐ほんかいだと、感動して、ながめていた。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
港八九は成就じょうじゅいたり候得共そうらえども前度せんどことほか入口六ヶ敷候むずかしくそうろうに付増夫ましぶ入而いれて相支候得共あいささえそうらえども至而いたって難題至極ともうし此上は武士之道之心得にも御座候得そうらえば神明へ捧命ほうめい申処もうすところ誓言せいげんすなわち御見分のとおり本意ほんいとげ候事そうろうこと一日千秋の大悦たいえつ拙者せっしゃ本懐ほんかいいたり死後御推察くださるべくそうろう 不具ふぐ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大人たちが、防衛のため、大喝したり、水でもぶッかけると、むしろ彼らは本懐ほんかいな気分にでもなるのか、一そう狂舞の図を描いて
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らはここで、一そうその異口同音を高めながら、天皇の御楯みたてとなることのよろこびを、武士の本懐ほんかいであり、大きな生きがいだといった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらくそういったら、彼以外の者は、それを彼の虚偽と顰蹙ひんしゅくするであろうほど、人知れずそれは彼のみが本懐ほんかいとしていた境地だったのだ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
篠村しのむら八幡へこめた願文がんもんにも、彼は国内平安と朝家の御為をうたっている。家の名をはずかしめずともいっている。また彼の思想からも元々、逆賊叛臣が本懐ほんかいではない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本懐ほんかいのほどを洩らし、同時に側臣たちへも精勤をうながしたとのことであるが、春潮ちて船出を想うような彼の心事は、まさに、成るも成らぬも、われ世に会せりとして
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべての事は、きょうの夜明けに、大七から越前守御父子へ申し告げてやった……。そして、ここに自分の心の底をのべて、恩師の御息女におわびすることもかのうた。本懐ほんかいです。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉は惚々ほれぼれと見入っていた。首級の若い唇は、紫いろを呈していたが白い歯なみを少し見せ——君、君タラズトイエ臣、臣タリ——の義をつらぬいた本懐ほんかいを自ら微笑ほほえんでいるようだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一地で玉砕ぎょくさいすることを以て、武家の本懐ほんかいだと、言い出すであろう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はははは。同情はかたじけないが、さまで正成の身に立入ってくれるにはおよばん。山沢さんたくの子には、また山沢の子ならでは分らぬ本懐ほんかい一楽いちらくがある。むしろ尊氏どのの道こそ終生如何あろうかと惜しまれる。……おう」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『——本懐ほんかいを達することも、もう年内だ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さむらいの本懐ほんかいだ。ほかは?」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)