木片こっぱ)” の例文
ほこりけの手拭を吹流しに冠って、燃え草の木片こっぱを抱えた嫁のお冬、美しい顔を硬張らせて、宵闇の中にどこともなく見詰めております。
あっしの方はモットおかしいんで……あっしはこれでも小手斧こちょうなの癇持ちでげして、小手斧こちょうな木片こっぱが散らかるのが大嫌いでげす。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
風吹き通す台所だいどこに切ってある小さなに、木片こっぱ枯枝かれえだ何くれとされる限りをくべてあたっても、顔は火攻ひぜめせな氷攻こおりぜめであった。とめやが独で甲斐々々しくけ廻った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夢がどうした、そんな事は木片こっぱでもない。——俺が汝等うぬらの手でつら溝泥どぶどろを塗られたのは夢じゃないぞ。このかッと開けた大きな目を見ろい。——よくもうぬ、溝泥を塗りおったな。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「イエ、ナニ、お眼にとまって恐れ入りますが、これが、まあ、私の道楽なので、商売に出ない日は、こうして木片こっぱを刻んでは、おもちゃにしております。お恥ずかしい次第で」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さがしたのです。そうしたら、苔の間に、木片こっぱの陰になって落ちて居たのです
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
春見は口へ手を当て様子をうかゞうとすっかり呼吸が止った様子ゆえ、細引をき、懐中へ手を入れ、先刻渡した千円の金を取返とりかえし、たきゞ木片こっぱ死人しびとの上へ積み、縁の下から石炭油せきたんゆびんを出し
ちょうなで片耳ぎ取るごときくだらぬことをがしょうや、わが腹立ちは木片こっぱの火のぱっと燃え立ちすぐ消ゆる、こらえも意地もなきようなることでは済まさじ承知せじ、今日の変事は今日の変事
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すると、一人の日本少年が、どこからか薄い木片こっぱを拾って来てくれた。が、一間も隔っている檻へ、いかにして差し入れようかと考えていると、老人の牢番が、それを受けついで渡してくれた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
月光がしんとすればするほど、心臓の鼓動はいよいよ激しくなり、痛いくらいであった。どこまでもしんと静まり返っている! ふと、木片こっぱでも折ったように、一瞬間、ものの裂ける乾いた音がした。
今日はうちが婚礼だからと云って断ると冗足むだあしをするべいじゃねえ、炭がなければ此の寒いのに木片こっぱを焚いてブウ/\云ってあたるくらいで、大勢の人に寒い思いをさせなければなんねえから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はつよきの音、板削るかんなの音、あなるやらくぎ打つやら丁々かちかち響きせわしく、木片こっぱは飛んで疾風に木の葉のひるがえるがごとく、鋸屑おがくず舞って晴天に雪の降る感応寺境内普請場の景況ありさまにぎやかに
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ジーンと全身に響く怪音、振り返ると研究室は、カーッと白光に充たされて、床も羽目も、卓子テーブルも、椅子いすも、いや、あの怪奇な機械さえも、木片こっぱ細工のようにメラメラと燃えて居るではありませんか。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私や金と同じことに今ではどうか一人立ち、しかもはばかりながらあおぱならして弁当箱の持運び、木片こっぱを担いでひょろひょろ帰る餓鬼がきのころから親方の手についていた私や仙とは違って奴は渡り者
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
前回に申上げました通り、春見丈助は井生森又作をくびり殺して、死骸の上に木片こっぱを積み、石炭油せきたんゆぎ掛けて火をけて逃げますと云うのは、極悪非道な奴で、火は一面に死骸へ燃え付きましたから