こご)” の例文
肩をこごめ背を丸め、顔を低く地に垂れた。そうしてたれた犬のように、ヨロヨロと横へ蹣跚よろめいた、私は何かへ縋り付こうとした。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
代助はこごんで、花の中をのぞき込んだ。やがて、ひょろ長い雄蕊ゆうずいの頂きから、花粉を取って、雌蕊しずいの先へ持って来て、丹念に塗り付けた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正太は前の方へこごみ気味に、叔父をよく見ようとするような眼付をした。三吉も窓のところに、しずくに成った鶏のようにションボリ立っていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あなたあなた」と宗助の枕元へ来てこごみながら呼んだ。その時夫はもう鼾をかいていなかった。けれども、元の通り深いねむりから来る呼吸いきを続けていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は腰に差した鎌を取出して、時々鍬に附着する土を掻取かきとって、それから復た腰をこごめて錯々せっせとやった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勝は苦しそうに、前の方にこごんでけた。乗っていた代助は、二重の頭がぐるぐる回転するほど、風に吹かれた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お民はそれを言って、あがりはなのところに腰をこごめながら新しい草鞋わらじをつけている半蔵のそばへ来た。景蔵、香蔵の二人もしたくして伊那行きの朝を迎えていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宗助はこごんで、人の履物はきものを踏まないようにそっと上へのぼった。へやは八畳ほどの広さであった。その壁際かべぎわに列を作って、六七人の男が一側ひとかわに並んでいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「オオ、ほんに、柿の樹が有るそうな」とお種は身をこごめて、庭のすみに垂下る枝ぶりをながめながら
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すべてが今朝出掛に頭の中へ収めて行った光景と少しも変っていなかった。宗助は外套マントも脱がずに、上からこごんで、すうすういう御米の寝息をしばらく聞いていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
居残る人足は腰をこごめて御仮屋を取片付ける最中。幕は畳み、旗は下して、にわか四辺そこいらが寂しくなった。細々と白い煙の上る松蔭には、店を仕舞って帰って行く商人の群も見える。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は敬太郎に当った拍子ひょうしに、敬太郎の持っていた洋杖ステッキ蹴飛けとばして、それを持主の手から地面の上へ振り落さしたのである。敬太郎はすぐこごんで洋杖を拾い上げようとした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅の百姓は本陣の表玄関のところに立って、広い板の間の前の片すみに腰をこごめている。ちょうど半蔵は昼の食事を済ましたころであったが、この男がまだ飯前だと聞いて、玄関から手をたたいた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それでも始の内は滑稽こっけいも構わず暇がかかるのもいとわず平気でやっていたが、しだいに僕の好奇心を挑発ちょうはつするような返事や質問が千代子の口から出て来るので、僕はこごんだまま
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西の空はと見ると、山のは黄色に光り、急に焦茶色と変り、沈んだ日の反射も最後の輝きを野面のらに投げた。働いている三人の女の頬冠り、こごめた腰、皆な一時に光った。男の子の鼻の先まで光った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
物置の横へ立て掛けた張板の中途から、細い首を前へ出して、こごみながら、苦茶苦茶になったものを丹念に引き伸ばしつつあった手を留めて、代助を見た。一寸ちょっとは何とも云わなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婆やは流許ながしもとに腰をこごめて威勢よく働いていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)