さと)” の例文
新字:
客は自己の無智に乗ぜられていながら、少しもそれをさとらずに、薄い笑談じょうだんの衣を掛けた、苦い皮肉をあびせられて、無邪気に笑い興じている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
婦人は此言をなしをはりて、わづかにおのれの擧動ののりえたるをさとれりとおぼしく、かほに火の如きくれなゐのぼして席をすべり出でぬ。
人或は一見して云はむ、これ僅に悲哀の名を變じて欝悶と改めしのみと、而も再考して終に其全く變質したるをさとらむ。ボドレエルは悲哀に誇れり。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
花と望みし峯の白雲あとなく消れば、殘るはお蘭さまの御身一つと、痛はしや脊負ふにあまる負債ものもあり、あはれ此處なる邸も他人ひと所有ものと、唯これだけをさとり得ぬ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かろんずる氣色けしきありて甚だ心底しんていおうぜぬ者なりと申されける是は只今にも登城に及びもし直願ぢきねがひ取次等とりつぎらを申出るとも取次させまじとわざかくは其意をさとらせし言葉なるべし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして可成なるべく彼にさとられざる樣に息を殺して、好奇心を以て仔細に彼の擧動に注目した。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
細君はそれをひろげて見ても意味をさとることができなかったが、しかし促織が見えたので、胸の中に思っていることとぴったり合ったように思った。細君さいくんは喜んで帰って成に見せた。
促織 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
秀イヤ春子嬢の潔白な事を証明するから其の代わり、道九郎君は嬢に憎まれる様に仕向けよと、私が無理に約束を結ばせました、けれど今は到底二人を引き離す事の出来ぬのをさとりました
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
おのがさけびの心をも、つひにさとらで傷つける
君の我身を愛し給ふをば、彼の不幸なる日の夕に、彈丸たまのベルナルドオを傷けし時、君が打明け給ひしに先だちて、私はさとり居り候ひぬ。
昧者にしてみづから其昧をさとらず、仰いで言を立つるものに向ひて、汝は昧者なり、我が聚美の堂に來りて看よとのみいひて、その効あるべきか。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
何人なんぴとつひにそれとさと目付めつき
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
暫くは日の天にちゆうするが如き位にありて、世の人の讚歎の聲に心惑ひ、おのがわざの時々刻々くだりゆくをさとらず、若し此時に當り早くはかりごとをなさゞるときは
無智なる、可憐かれんなるお雪さんは、この破壊この弛廃をあえてして自らさとらないのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
われらの示すをしへさとらじ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)