明白あからさま)” の例文
……明白あからさまに云うと、この上降続いちゃ、秋風は立って来たし、さぞき厭きして、もう引上げやしまいか、と何だかそれが寂しかったよ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なされても御所持の荷物なり金子なり共うばとらんと思へばすぐに取て御目に懸ますと然も戯談じようだんらしく己が商賣を明白あからさまに云てわらひながら平氣へいきに酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「されば、なんでもどこかの侍が数人とも顔面を何者にか知れず傷つけられたと申す事で」と明白あからさまには源八郎云わなかった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「おおよく申した。さすがはなんじ。悪僧ながらも度胸きも太い。……既に明白あからさまに申したからは、罪の成敗承知であろうの?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
銀之助の不平は最早もう二月ふたつき前からのことである。そして平時いつこの不平を明白あからさまに口へ出して言ふ時は『下宿屋だつて』を持出もちだす。決して腹の底の或物あるものは出さない。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
もう六十有余にもなる質朴の田舎おやじでげすから、まさか悪気わるぎのあるものとも思われぬので、お若さんも少しは心が落著おちつき、明白あからさまに駈落のことこそ申しませぬが
道徳的にはかつて『見果みはてぬ夢』という短篇小説中にも書いた通り、特種の時代とその制度のもとに発生した花柳界全体は、最初から明白あからさまに虚偽を標榜しているだけに
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きるとは、ふたたびわれかへるの意にして、ふたゝびわれに帰るとは、ねがひにもあらず、のぞみにもあらず、気高けだかき信者の見たる明白あからさまなる事実じじつなれば、聖徒イノセントの墓地によこたはるはなお埃及エジプト砂中さちうに埋まるが如し。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……それまでが、そのままで、電車を待草臥まちくたびれて、雨にわびしげな様子が、小鼻に寄せた皺に明白あからさまであった。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そなたも豪雄弾正太夫殿の血統を受けた身であるからは父上に似てこころたけ女々めめしい振舞いあるまいと思えば、云いにくい事ではあるけれど市之丞殿のお身の上を明白あからさまにお聞かせ致しましょうぞ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鳶頭がまさか明白あからさまに伊之さんの来ていたことは言いもせまいとは思いますが、しひょっと伯父さんに言ったので来たのではないか知らん、なんにしても悪いところへ来たと変な顔をしております。
得ざるなりと仰られければ半右衞門忽ちいろ蒼然あをざめ恐れ入て答へなし時に越前守殿コリヤ憑司只今きく通りにてすそに血のひき飛石とびいしの血ばかりでは其血ともけつがたし其方おぼえあらう明白あからさまに云立ろと云はれしかば憑司は心中ぎよつとしてしづかに頭を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ついては、ちっと繕って、まあ、穏かに、里で言う峠の風説うわさ——面と向っているんですから、そう明白あからさまにも言えませんでしたが、でも峠を越すものの煩うぐらいの事は言った。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)