折悪おりあ)” の例文
旧字:折惡
折悪おりあしく、その紅い海水着のまま、台所とも玄関ともつかない所で洗濯していた私は、ぞんざいな口調で、「何ですか」と尋ねたものです。
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それが折悪おりあしく……いや時も時とてあなた様のお相手に割当てられ、勝ちたいにもその望みはなく、逃げましてはなお以て面目立ちませぬ。
折悪おりあしく辰夫は社用で不在だったが、あの神経質な又冷淡な母親を予想していた私は、そこに全く思いがけない物静かな
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「それが歩いたのです。おそかったものですから、乗合はなく、賃自動車を探しましたが、折悪おりあしく皆出払っていたので、思い切って歩きました」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
またあとの大部隊も折悪おりあしく退潮時しおどきにかかったため、上陸を見合わせているうち、家康の早い防ぎ手に、一歩、先んじられてしまったのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矢田はこの機いっすべからずと、あたりを見廻したが、折悪おりあしく円タクが通らないので、二人はそのまま立止った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
多感の才人、折悪おりあしく健康の衰え切っていたメンデルスゾーンにとって、それは想像以上の打撃であったらしい。彼はもはや作曲する力も指揮する張合はりあいもなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
どんなに折悪おりあしく、しかもどんなに妖怪ようかいのようなおせっかいをもって、私の野心の邪魔をしたことか! ウィーンでも——ベルリンでも——またモスコーでも! まことに
折悪おりあしく震災後の交通がマダ常態に復さないので、電車の通ずるよいうちに散会したが
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
泉原は老人に会い、絵を描く事によって生活の保証を得る相談をしたいと思ったのである。が折悪おりあしくA老人は二十日程前から旅行中で、いつ帰って来るとも知れぬという事であった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
折悪おりあしく同人を討洩らし、如何いかにも心外に存じ候ゆえ、一時其の場をのがれ、たとい何処いずくはてに潜むとも、おのれ生かして置くべきや、無念をらしてのち訴え出でようと思い居ります内、母の大病
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長者僧を供養しおわり、室を開けて見れば右の始末、やむをえず五色のせんもてその屍を飾り、葬送して林中に到る。折悪おりあしく五百群賊盗みし来って、ここに営しいたので、送葬人一同逃げ散った。
それを折悪おりあしく来かかったTコオチャアに見つけられ、みんなはその場で叱責しっせきされたばかりでなく、Tさんは主将の八郎さんに告げたので、八郎さんがまたみんなを呼びつけて烈火れっかのようにいか
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そこは折悪おりあしく十字路であった。
五階の窓:05 合作の五 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十月に入って師匠が稽古に出られる頃にはその年は折悪おりあしく主人のヨウさんが会社の用で満韓まんかんへ出張という次第。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふざけるな! と宅助はムカついて、何か痛い言葉をぶッつけてやろうと、浅黒いうわ唇をめあげていると、折悪おりあしく、宿の女中が廻ってきて、夜具の支度をしはじめた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ノキ場所ヲ見附ケルニ折悪おりあシク脚気ニテ、久シク煩ッテイタ故、歩クコトガ出来ヌカラ、人ニ頼ンデ漸々ようよう入江町ノ岡野孫一郎トイウ相支配ノ地面ヘ移ッタガ、ソノ時オレハ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんな問答を繰返くりかえしている所へ、折悪おりあしく私の家内が、お茶を運んで来ました。井関さんは、ハッとしたように、居ずまいを正して、例の無気味な笑い方で、矢庭やにわにヘラヘラと笑いだすのでした。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朶雲拝誦だうんはいしょう。老兄忽然こつぜんノ御出府、意外驚異つかまつり候。まず以テ御壮健ニ御座ナサレ賀シ奉候。折悪おりあシク昨年来房州ヘ遊歴留守中早速ニ拝眉はいびヲ得ズ、消魂ニ堪ヘズ候。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
折悪おりあしく、そこへ油単ゆたんの包みが破れて、その紙片が長く氷柱つららのようにブラ下がっていたのを、火の手が、藤蔓ふじづるにとりついた猿のように捉えると、火は鼠花火の如く面白く走って
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「せっかくでございますが、上も下も、折悪おりあしくふさがりまして、御用に足りますような座敷は一つもござりませぬ。まことに申しかねますが、どうぞほか様へひとつお越しのほどを」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急いで取って返して旅の仕度をしているところへ、折悪おりあしくお角が帰って来ました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)