払暁ふつぎょう)” の例文
旧字:拂曉
このほか、ここ一山を中心として、払暁ふつぎょうからひるまえの二刻ふたときばかりにわたる合戦中に、武功を示した将士は列挙するにいとまもないほどである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼岸の来るころには中日までに村じゅうを托鉢たくはつして回り、仏前には団子だんご菓子を供えて厚く各戸の霊をまつり、払暁ふつぎょう十八声の大鐘、朝課の読経どきょう
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あなたの許婚いいなずけ右京次郎殿、例によって先達せんだつとなり、水晶山の人足ども、明十日の払暁ふつぎょうに、黒姫山を逃げようと企てておるのでございますぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして君は、ちょうどそう云う状態の時吝嗇漢ラザレフはそれを吹き消して、その後にルキーンが扉を叩いた払暁ふつぎょうに、また使ったと云うのだね。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
払暁ふつぎょう海岸通りを見廻っていた観音崎署の一刑事は、おきん婆あの船員宿の前の歩道におびただしい血溜りを発見して驚いた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
一八一五年六月十八日の払暁ふつぎょう、ロッソンムの高地に双眼鏡を手にして馬上にまたがったナポレオンの風姿を、ここに描くことはおそらく蛇足だそくであろう。
青年は諦めて外へ出たが、払暁ふつぎょうになって一人で往ってみると何もなかった。後妻も一人の時には何もなかった。
前妻の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
光尚はたびたび家中のおもだったものの家へ遊びに往くことがあったが、阿部一族を討ちにやった二十一日の日には、松野左京の屋敷へ払暁ふつぎょうから出かけた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そんな時に払暁ふつぎょうよく私達は鮎を嗅ぐ、未明の靄の中で渓流のほとりを行くと、実際に香魚こうぎょといふだけあつて鮎は匂ふ、川の中から匂ふ、水面に跳ね始めたら誰にでも匂ふが
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
この目標によって、彼等ドイツ軍は、この払暁ふつぎょう、このハンバー河口の機雷原きらいげん高射砲弾幕こうしゃほうだんまくとを突破して、この地に上陸作戦を敢行かんこうする手筈てはずだった——仏天青も、ようやくそれをさとった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
払暁ふつぎょうマダ暗い中に中津の城下に引返して、その足で小倉まで駈けて行きました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
払暁ふつぎょうの行事としては照明の必要はなく、何か一つの目標になるものを持って行って流せばそれでよかったので、合歓木ねむのきの小枝をネブタという名の縁から、携えて行った目的もそれかと思うが
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
払暁ふつぎょうの薄い朱鷺色ときいろを背にうけて、ゆったりとたゆたっているその船。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
信長は、払暁ふつぎょうすでに、大宮を立って、浮島ヶ原から愛鷹山あしたかやまを左に見て進んでいた。旅行中も、寝るにはおそく、起きるにははやい信長だった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法鼓ほうこ諷経ふうぎん等の朝課の勤めも、払暁ふつぎょうに自ら鐘楼に上って大鐘をつき鳴らすことも、その日その日をみたして行こうとする修道の心からであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
阿部一族の立て籠っている山崎の屋敷に討ち入ろうとして、竹内数馬の手のものは払暁ふつぎょうに表門の前に来た。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それは鳰鳥におどりが「双玉の原」から「麒麟山」へ上った同じ日の、まだ払暁ふつぎょうのことであったが、「麗人」の領主大物ぬしは、群臣を左右に引き連れて、本城の階段に立っていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同年四月九日払暁ふつぎょうを期して、ニヴィイユ元帥は全軍を躍らせて総攻撃に移る。シャンパアニュの原野。ところが、マタ・アリの予報で待ちかまえていたのだからたまらない。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼はディオン・ル・モンに露営していたのであって、払暁ふつぎょうより出発していた。しかし道路は通行に困難をきわめ、各師団は泥濘でいねいの中に足を取られた。砲車はわだちの中にこしきの所までも没した。
その時、半蔵は払暁ふつぎょうの参拝だけを済まして置いて、参籠のしたくやら勝重を見ることやらにいったん宿の方へ引き返した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その頃、もうお互いの面には払暁ふつぎょうの薄明りが見られていた。たしかに夜は白みかけているのだ。しかしいよいよ深い朝霧に物の色目あやめ識分みわけられない。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さてその翌日の払暁ふつぎょうのこと、三人三様の人間が大江戸の地を発足し、甲州街道へ足を入れた。一人は立派な旅姿、紛れのない若武士で、小石川は水戸屋敷、そのお長屋から旅立った。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
街路から切り取った小さな中庭のような防寨の内部は、やみに満たされて、払暁ふつぎょうの荒涼たる微明のうちに、こわれた船の甲板に似寄っていた。行ききする戦士の姿は、まっ黒な影のように動いていた。
僕には何かしら当時——その払暁ふつぎょうに武蔵がどう闘いの地へ臨もうかと苦念したかという気持が突然暗い松かぜの中からささやかれてけたような暗示を受けた。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう払暁ふつぎょうに近い上刻じょうこく(午前三時半)頃になっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同夜、いや、もうあくる日といってよい、払暁ふつぎょうだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさに二十一日の払暁ふつぎょう
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)