手創てきず)” の例文
手創てきず負いてたおれんとする父とたよりなきわれとを、敵の中より救いたるルーファスの一家いっけに事ありと云う日に、ひざを組んで動かぬのはウィリアムの猶好まぬところである。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ロミオ はて、そのねらひはづれた。戀愛神キューピッド弱弓よわゆみでは射落いおとされぬをんなぢゃ。處女神ダイヤナとくそなへ、貞操ていさうてつよろひかためて、こひをさな孱弱矢へろ/\やなぞでは些小いさゝか手創てきずをもはぬをんな
味方に多少手創てきずを負うたものがありとはいえ、もうこうなってみればこっちのもの——胆吹へ追い込んで、遠巻きにじりじりと攻め立てれば、道庵も早や袋の鼠——石田
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十五年二月廿二日御当家御攻口おんせめくちにて、御幟を一番に入れ候時、銃丸左のももあたり、ようよう引き取り候。その時某四十五歳に候。手創てきず平癒へいゆ候て後、某は十六年に江戸詰えどづめ仰つけられそろ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すぐ再び尾張へ向けて立つ真際まぎわに、かねての打合せどおり、義平を木曾路へ、次男朝長を信州方面へ打立たせたが、朝長は前から悩んでいた手創てきずに耐えかねて、途中から父の許へ引っ返して来て
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに本多家、遠藤家、平岡家、鵜殿家の出役しゅつやくがあって、先ず三人の人体にんてい、衣類、持物、手創てきず有無ゆうむを取り調べた。創は誰も負っていない。次に永井、久保田両かち目附に当てた口書を取った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
筒袖つつそで野袴のばかまをつけたのや、籠手こて脛当すねあてに小袴や、旅人風に糸楯いとだてを負ったのや、百姓の蓑笠みのかさをつけたのや、手創てきずを布でいたのや、いずれもはげしい戦いとうえとにやつれた物凄ものすごい一団の人でしたから
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今頃はすっかり手創てきずなおって、しかるべきところへ縁づいて、子供の二人も出来ている時分なのでしょうが、大和の岡寺の薬屋源太郎という名前が妙に気になりましてな、今でも、あの娘さんが