戛然かつぜん)” の例文
と、跳び上がったが、その叫びも終らないうちに、後ろにまわっていた武士の手から、戛然かつぜん、大剣は鳴って、その首すじへ振り落された。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といいながら挙げたる手をはたと落す。かの腕輪は再びきらめいて、玉と玉と撃てる音か、戛然かつぜんと瞬時の響きを起す。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とたんに鉄棒くうに躍ってこうべを目懸けてえい! と下す。さしったりと身を交せば、ねらはずれて発奮はずみを打ち路傍の岩を真二まっぷたつ。石鉄戛然かつぜん火花を散らしぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ、潮どきを見はからつた小幡氏が、わざと戛然かつぜんたる靴音を二つ三つ響かせながら、ヴェランダに降りてきた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
いっさいのなぞがその陳述によって解きあかされましたものでしたから、右門の全能力はここに戛然かつぜんと音を発せんばかりに奮い起こりました。第一はその侠気おとこぎです。
その途端に、わが牛の鼻を抑えていた飼主は呼吸をはかって互いに鼻糜はなげを抜いた。鼻糜を抜くや戛然かつぜんたる響きが見物席へ伝わった。火を発するのではないかと思った。角と角と力相ったのだ。
越後の闘牛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
急角度旋回の秘法は見事にきまって、あっと言う間もなく、怨讐二つの飛行具は、戛然かつぜんとして空中に噛み合ったと見るや、絡み合ったまま、幾百千丈の谷底へ——、キリキリと轉落して行ったのです。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
袋の中から戛然かつぜんの音と共に散乱して溢れ出たのは目を衝く様な無数の光る物である、薄暗い室の中に、秀子の持って居る手燭の光を反映し、殆ど天上の星を悉く茲へ落したかと怪しまるる許りである
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
戛然かつぜんとして鳴りひゞき、足とき駒はをののけり。 295
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
振り向いた頭上から、戛然かつぜん、一せんの白刃がおりてきた。どうかわす間も受ける間もない。魏延の首は血煙を噴いてすッ飛んだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右手をべて、輝くものを戛然かつぜんと鳴らすよと思うに、たなごころより滑る鎖が、やおら畳に落ちんとして、一尺の長さにめられると、余る力を横に抜いて、はじにつけた柘榴石ガーネットの飾りと共に
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秋の水は澄み切って、あゆひれほどの曇りもないから、差覗さしのぞくと、浅い底に、その銀の平打の簪が映って、ながれが糸のようにかかるごとに、小石と相撃って、戛然かつぜんとして響くかと、伸びつ、縮みつする。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怒の神の肩の上、矢は戛然かつぜんと鳴りひびく。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
彼に比して、織部の槍は、細目だったせいか、戛然かつぜん、けら首のあたりからポキンと折れて、その穂先だけが、あたかも氷片のように遠くへ飛んだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、棒をとって、立ち向ったのだが、戛然かつぜん、白刃と棒が相ッたと思うやいな、どこをどうして打ち込んでいたのか、誰の眼にもとまらなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜叉やしゃのごとく荒れまわった忍剣は、とつとして、いっぽうの捕手とりてをかけくずし、そのわずかなすきに、ふたたびわしくさりをねらって、一念力、戛然かつぜんとうった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戛然かつぜん——。関羽の偃月えんげつの柄と交叉して、いずれかが折れたかと思われた。逸駿赤兎馬は、主人とともに戦うように、わっと、口をあいて悍気かんきをふるい立てる。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だがもう、わしに追いつめられたはやぶさだった。つきまとう木剣の下に、戛然かつぜんと、槍が折れた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一颯いっさつの光は戛然かつぜんと鳴った。宗治は、自分に先立つ道づれを、涙とつるぎの下に見た。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日月二刀のひらめきが彼の身をかすめ、それをかばおうとした誰か一人は馬上からずんと斬り下げられていた。戛然かつぜんと、ほこがつづいて斬られた。暗さは暗しである。宋江は危なかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という、半助のののしりにされ、それと同時に、戛然かつぜんけんがひらめいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、戛然かつぜん、抜き払った一閃の下に、于吉の首を刎ねてしまった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その首を前へのばすや否や、戛然かつぜん、剣は彼のうなじを断った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういって、戛然かつぜんと、抱いていた物干竿のつかを鳴らし
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戛然かつぜんと、二度目の剣が、空間に鳴った。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)