みじめ)” の例文
旧字:
おとらは不機嫌なお島の顔を見ると、お島が七つのとき初めて、人につれられて貰われて来た時のみじめなさまを掘返して聞せた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
皇帝ツアールの位から滑り落ちたニコラス二世以上にみじめだと言つていゝ。愛は露西亜帝国よりもずつと大きいからである。
寄る年と共にますます耳は遠くなり、貧乏教会の牧師で自身の貯金も使い果した後は、随分ずいぶんみじめな生活でした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
みじめたらしいお姿を見せないようになさるのが武士の情けとやらではございますまいか、お武家でなくてもそうでござんすね、普通の人情としても、人間の亡骸なきがらなんぞは
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昨日きのふよりも色が蒼く、眼が物狂はしいやうな、不気味な色を帯びてゐた。瑠璃子もなるべく父の顔を見ないやうに、俯いたまゝ食事をした。それほど、父の顔はいたましくみじめに見えた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ニューヨークのあの摩天楼の櫛比しっぴした上に巨大な破壊力がおちかかる時の光景を想像すれば、どんな蒙昧な市民も、それが、ノア洪水より、みじめな潰滅の姿であることを理解するだろう。
平和への荷役 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
物質の分配がどうだの、理想がどうだの、何イズムだのと陰に陽にお祭り騒ぎして居るけれど、人間なんて、本当の処はおけの底のウジのようにうごめき暮らして居るみじめな生物に過ぎないんですな。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なつかしいと思ふこともあつたり、みじめな目にあつてゐるであらうと思ふこともあつたりすることはあるが、彼はすぐに気がたかぶつて、あの事がすつかり露顕ばれてしまふ様になつた良人をつと頓間とんまさを思ひ返しては
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
だが、又しても妾は、そこでみじめなジョージ・佐野の地獄に墜ちたような姿を見るのでした。彼は妾達には気がつかないようでした。佐野は最後の百フランをルーレット係に渡して白札を求めているのです。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
船腹の色のはげ落ちたみじめさは
碇泊船 (新字新仮名) / 今野大力(著)
瑠璃子もなるべく父の顔を見ないように、うつむいたまゝ食事をした。それほど、父の顔はいたましくみじめに見えた。昼の食事に顔を合した時にも、親子は言葉らしい言葉は、交さなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
人が喰合くいあう都会では、人口の増加は苦痛くつうの問題だが、自然を相手に人間のたたかう田舎の村では、味方の人数が多い事は何よりも力で強味つよみである。小人数こにんずの家は、田舎ではみじめなものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
作とお島との婚礼談こんれいばなしが、遠方の取引先などで、おもいがけなくお島の耳へ入ったりしてから、お島は一層分明はっきり自分のみじめな今の身のうえを見せつけられるような気がして、腹立しかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何によらず小さいのはみじめなものだが、とりわけ政治家の小さいのは気の毒なものだ。
女の睨みがゆるんで来るとみじめなベソの様な表情が現れて来た。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
紙鳶たこすら自由に飛ばされず、まりさえ思う様にはつけず、電車、自動車、馬車、人力車、自転車、荷車にぐるま、馬と怪俄けがさせ器械の引切りなしにやって来る東京の町内にそだつ子供は、本当にみじめなものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お島の目にはみじめらしく滑稽にみえた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)