御社みやしろ)” の例文
いま、竹中半兵衛がそう告げて来たゆえ、やにわに起き出て、まず、城中の御社みやしろへ詣で、ここ数十日の懈怠けたいをおわび致して来た
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
順道じゅんとうならば、今頃は既に、藤原の氏神河内の枚岡ひらおかの御神か、春日の御社みやしろに、巫女みこの君として仕えているはずである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
いやいや、御堂みどう御社みやしろに、参籠さんろう通夜つやのものの、うたたねするは、神のつげのある折じゃと申す。神慮のほどもかしこい。……ねむりを驚かしてはなるまいぞ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明治の新たなる政策で修験しゅげんの立派は否認せられ、彼らの一半は法を慕うて忍耐して僧となり、他の一部分は御社みやしろの威徳を忘れかね、還俗げんぞくしてひらの神職に編入せられた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同じ御領内に鎮守の御社みやしろを預かって、御家繁昌御家安泰を御祈願すべき神主が、由々敷一揆の相談うけたときかばさぞかし御不審でおじゃろうが、拙者、ちと変り者でな。
たてさせ給ひたりけるよりかく名けけるとかや申也。其時の壇の石にて侍るとて御社みやしろの前のみちの辺にしめ引まはしたる石あり。此御社はあなと豊浦の都の大内の跡にて侍とかや。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おれは何時かの雨夜以来、唯この姿を忘れたいばかりに、どの位四方の神仏へ、祈願をらしたかわからない。が、加茂の御社みやしろへ行けば、御鏡の中にありありと、侍従の顔が映つて見える。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
住吉すみよし御社みやしろのほうへ向いてこう叫ぶ人々はさまざまの願を立てた。また竜王りゅうおうをはじめ大海の諸神にも源氏は願を立てた。いよいよ雷鳴ははげしくとどろいて源氏の居間に続いた廊へ落雷した。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浮評うわさに聞える御社みやしろはあのことでおじゃるか。見ればいとう小さなものじゃ」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
御社みやしろの尾白の馬の今日もなほ痩せず豆故郷ふるさとを見ぬ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
暮れて行く枯木も加茂の御社みやしろ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
眺望するに山々には殘りの花あり雲雀ひばり鶯の聲は野に滿ち下は湖水へ注ぐ大河ありて岩波高きに山吹危うげに咲きこぼれたる此景色今まで何とて目にはらざりしといぶかるやがしもの諏訪秋の宮に詣づ神さびたるよき御社みやしろなりかみの諏訪に春の宮あり莊嚴目を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「どこかこの地方に、源氏に縁故のある御社みやしろはあるまいか。——そちは毎年通っている道中だから知っているだろう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
順道じゆんたうなれば、今頃は既に、藤原の氏神河内の枚岡ひらをか御神おんかみか、春日の御社みやしろに仕へてゐるはずである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
御社みやしろ預る沼田正守、豊明権現様に御貴殿が御家名安泰の御祷りも出来ぬというものじゃ。
いよいよ御社みやしろに向いて子のために念じていた。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、その向こうには、神さびた弁天堂べんてんどうの建物が見えた。なお、あたりには、宇賀うが御社みやしろ観音堂かんのんどう多聞堂たもんどう月天堂げってんどうなどの屋根が樹の葉のなかにいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かまわぬ、——鳥居大路からは十禅師じゅうぜんじの辻へ。そして祇園ぎおん御社みやしろを横に、吉水まで。悠々とやろうぞ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町でも見、御社みやしろの庭でも見、よく覚えておる。——ところがその後、年を経て同じおひとを、春日山の御城下に見た。何とそれが、上杉家の臣、黒川大隅家のやしきに召使となっておる。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春日かすがやその他、名だたる御社みやしろに座をおく申楽師ともなれやあ大したものだが、散所芸人といわれる乞食申楽をして歩いていたンでは、お内儀も一生、大道のほこりにまみれて、食うや食わずの毎日を
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おう、御住職か。あまりうららかさに、春日かすが御社みやしろまでまいって来た」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)