彼方あち)” の例文
ロミオ なう、しかってくださるな。此度こんどをんなは、此方こちおもへば、彼方あちでもおもひ、此方こちしたへば、彼方あちでもしたふ。以前さきのはさうでかった。
番頭久八は大いに驚き主人五兵衞へ段々だん/\詫言わびごとに及び千太郎には厚く異見いけんを加へ彼方あち此方こち執成とりなしければ五兵衞も漸々やう/\いかりを治め此後を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ええ、長いこと、庭の彼方あち此方こちを、おひとりで歩いていらっしゃいましたが、そのうちに、お山の大日堂の縁に、お休みになっているふうでした」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくら釣っても、ざすふなはかゝらず、ゴタルと云うはぜの様な小魚こざかなばかり釣れる。舟を水草みずくさの岸にけさして、イタヤの薄紅葉うすもみじの中を彼方あち此方こちと歩いて見る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
降らぬやうに祈るぞと云しが山下やまおろしの風の音雨と聞なされてさむること度々たび/\なり果して夜半に雨來る彼方あちに寐がへり此方こちに寐がへり明日あすこゝに滯留とならば我先づ河原へ出て漁者を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
望みに望む所なれば、我がもしも嫌やなどゝ言はゞ、お辰と同盟してどのやうの難義を言ひ出すやも斗られず、彼方あちよりも此方こちよりもくど/\と面倒を持ちこまれて、長く苦境に身を置かんより
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
カピ長 なゝ、なぜぢゃ、賢女けんぢょどの! 聰明樣おりこうさま、まゝ、おだまりなされ。喋々語べちゃつきたくば、とっとゝ彼方あちて、冗口仲間むだぐちなかま饒舌しゃべれ。
外は今にも降りそうな空の下に、一村ひとむら総出の麦収納むぎしゅうのう此方こちでは鎌の音簌々さくさく彼方あちでは昨日苅ったのを山の様に荷車に積んで行く。時々にぎやかな笑声がひびく。皆欣々として居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
パリス 侍童わらはよ、その炬火たいまつをおこせ。彼方あちて、つッとはなれてゐい。……いや、それをせ、人目ひとめかゝりたうない。
彼方あち此方こちも養蚕前の大掃除おおそうじ蚕具さんぐを乾したり、ばた/\むしろをはたいたり。月末には早いとこではき立てる。蚕室をつ家は少いが、何様どんな家でも少くも一二枚わぬ家はない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)