引札ひきふだ)” の例文
古い歌舞伎趣味に浸っている一部の好劇家は苦々にがにがしそうに眉をしかめて、こんな引札ひきふだのような番附を投げ付けられては芝居を観にゆく気にもなれないと言った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
美事みごと玄関払いを食わされた。商売が繁昌すると見識が高くなる。まるでアベコベだ。当時の中学校は腰が低かった。校長が引札ひきふだを廻すのみならず、書記が近村へ勧誘に出掛けた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
頭の上には広告が一面にわくめて掛けてあった。宗助は平生これにさえ気がつかなかった。何心なしに一番目のを読んで見ると、引越は容易にできますと云う移転会社の引札ひきふだであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また少々慾張よくばって、米俵だの、丁字ちょうじだの、そうした形の落雁らくがんを出す。一枚ひとつずつ、女の名が書いてある。場所として最も近い東のくるわのおもだった芸妓げいしゃ連が引札ひきふだがわりに寄進につくのだそうで。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当時の引札ひきふだでも保存した人が、もし有ったならばこの事情はわかるであろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わざと知らせて馬鹿ばかがらせてよろこばせれば、大面先生おほづらせんせい横平よこひらたく、其面そのつらまはし、菊塢きくう可笑をかしやつだ、今度の会は彼処あすこもよほしてやらうと有難ありがたくない御託宣ごたくせん、これが諸方しよはう引札ひきふだとなり、聞人達もんじんたち引付ひきつけ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
あたまうへには廣告くわうこく一面いちめんわくめてけてあつた。宗助そうすけ平生へいぜいこれにさへかなかつた。何心なにごゝろなしに一番目ばんめのをんでると、引越ひつこし容易ようい出來できますと移轉會社いてんぐわいしや引札ひきふだであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)