幾筋いくすじ)” の例文
或時あるとき此室このへや手拭てぬぐい幾筋いくすじ掛けてあるかと問へば、彼は廊下を四つ打つた。けれども、手拭は三筋より無い。さらに聞直しても矢はり四つだと答へる。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そのはしらはしらあいだには、幾筋いくすじかの電線でんせんがつながっていました。そして、そのほそ電線でんせんにさらされてひかっていました。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
枕元に一間いっけんの出窓がある。その雨戸の割目われめから日の光が磨硝子すりガラスの障子に幾筋いくすじも細く糸のようにさし込んでいる。兼太郎は雨だれのひびきは雨が降っているのではない。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日はしずんだばかりだった。空には、はるか高く、細長い赤い雲が幾筋いくすじも浮んでいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
有年山うねやまから城下を通って海へ注ぐ静脈のような細い流れが幾筋いくすじも耕地をっていた。その一筋の水に沿って、弟を連れて大石主税は歩いていた。弟は吉千代といって彼より三ツ下の十一歳だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げんげん田もとめて行けば幾筋いくすじも引く水ありて流にうつ
歌集『涌井』を読む (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そのほしひかりさむばんにはこおって、あおそらしたに、幾筋いくすじかのぎんぼうのように、にじんでいるのがられたのです。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
思い出せない——一条の板橋を渡ると、やがて左へ曲る横町にのぼりの如くつるした幾筋いくすじ手拭てぬぐいが見える。紺と黒と柿色かきいろの配合が、全体に色のない場末の町とて殊更ことさら強く人目をく。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
くきふとのようになり、ちいさなえだは、幾筋いくすじとなくはちのまわりにがって、そのどんなちいさなさきにも、かわいらしいつぼみがついたのであります。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)