布衍ふえん)” の例文
その規則をあてはめられる人間の内面生活は自然に一つの規則を布衍ふえんしている事はぜん申し上げた説明ですでに明かな事実なのだから
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうでしょう、あの主意をあなたが布衍ふえんして、そうしてあなたの意見も加えてあなたの文章とかきかえて『ホトトギス』へ出して下さっては。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この要旨を布衍ふえんして、命を惜しい人は皆烏天狗のようなマスクをつけて歩いた。恐水病きょうすいびょうの流行った頃口籠くつこめられて難渋したことのある畜犬共は
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「思想あるいは力によって打ち勝った人々に拒む。ただ心情によって偉大だった人々だけを、私は英雄と呼ぶ。」「心情」という言葉の意味を布衍ふえんすれば
彼れは向象賢とは別で、支那系統の人で、しかも若い時支那で学んだ人であるが、彼れの活眼なる、つとに沖縄の立場を洞察して、向象賢の政見を布衍ふえんしています。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
「南蛮屋の一味を一口にいえば、天草、島原のキリシタン、その目的は邪教の布衍ふえん、ただし刻下の目的は、巻軸かんじくを奪おうとするのでござる。……もっとも巻軸はうまうまと……」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この一句を二時間でも三時間でも布衍ふえんして、幼少の時分恩になった記憶をまた新らしく復習させられるのかと思うと、彼は辟易へきえきした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この人生観を布衍ふえんしていつか小説にかきたい。相手が馬鹿な真似をして切り込んでくると、賢人もやむを得ず馬鹿になって喧嘩をする。そこで社会が堕落する。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こういうところから信綱をよこし、原の城を攻めてはいるのだが、そのうち引きあげるに相違ない。そうして事をうやむやに葬り、キリシタン宗徒を放任し、教義布衍ふえんを許すだろう。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
謎の女のかんがえは、すべてこの一句から出立する。この一句を布衍ふえんすると謎の女の人生観になる。人生観を増補すると宇宙観が出来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そもそも飛鳥井家は京師けいしの公卿、中納言にて伶人の家柄、右京次郎はその嫡子、本来なればかかる辺土へ参るべき人物ではございませぬが、自由平等人類愛の一大思想を布衍ふえんするため
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この取捨のない意味なども、実はバルザック論のところどころにあるのを私が、まとめて布衍ふえんして行くくらいなものであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
賄賂請託わいろせいたくが到る所から到来した。それにひそかに佐渡の金山の、山役人と結托をしていた。で美作は暴富であった。そうして美作はその暴富を、巧妙に活用することによって、自分の勢力を布衍ふえんした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは近頃大分流行致しておりますから、別段布衍ふえんする必要もございますまい。ただ御注意だけにとどめておきます。前の例などもここに応用ができます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前例を布衍ふえんして云うと地理、数学、物理、歴史、語学の試験をただ一人で担任すると同様な結果になる。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを布衍ふえんして云うと、一つには貴様もとうとうこんな所へ転げ込んで来た、いい気味だ、ざまあ見ろと云う事になる。もう一つは御気の毒だが来たって駄目だよ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでやむをえず全部を書き改める事にして、さて速記を前へ置いてやり出して見ると、至る処に布衍ふえんの必要を生じて、ついには原稿の約二倍くらい長いものにしてしまった。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
習慣の結果、必要とまで見做みなされているものが、急に余計な事になっちまうのはおかしいようだが、そののちこの顛倒てんとう事件を布衍ふえんして考えて見たら、こんな、例はたくさんある。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はこの公認された事実を勝手に布衍ふえんしているかも知れないが、始終接触して親しくなり過ぎた男女なんにょの間には、恋に必要な刺戟しげきの起る清新な感じが失われてしまうように考えています。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでやめておいても好い事をまた例の調子で布衍ふえんして、しものごとく述べられた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとよりただ筋の通るだけを目的に、誇張は無論布衍ふえんわずらわしさもできる限り避けたので、時間がそれほどかからなかったせいか、松本は話の進行している間一口も敬太郎をさえぎらなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ姉弟きょうだいからこういう質問を受けようと予期していなかっただけである。今更返す気だの、貰う積りだのと布衍ふえんすればする程馬鹿になるばかりだから、甘んじて打撃を受けていただけである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今更かへだの、もらう積りだのと布衍ふえんすればする程馬鹿になるばかりだから、あまんじて打撃を受けてゐた丈である。梅子は漸やく手に余る弟を取つて抑えた様な気がしたので、あとが大変云ひやすかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
細君が帰ってから幾日いくか目か経ったのち、彼女の母は始めて健三を訪ずれた。用事は細君が健三に頼んだのと大同小異で、もう一遍彼らを引取ってくれという主意を畳の上で布衍ふえんしたに過ぎなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梅子は始めて自分の本意を布衍ふえんしに掛かった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)