小糠雨こぬかあめ)” の例文
朝になると、昨夜は星が綺麗に見えていたのに、小糠雨こぬかあめが降っていた。その中に、とよが、傘もささず、池を覗いていた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
順序としていえば、前月の二月二十六日、尊氏は降人こうじんとして、終日のぬかるみと小糠雨こぬかあめにまみれた姿で京都につき、夜、上杉朝定ともさだのやしきに入った。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爾時そのとき仮橋かりばしががた/\いつて、川面かはづら小糠雨こぬかあめすくふやうにみだすと、ながれくろくなつてさつた。トいつしよに向岸むかふぎしからはしわたつてる、洋服やうふくをとこがある。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人に別れて、やがて小糠雨こぬかあめを羽織に浴びながら、団子坂の文房具屋で原稿用紙を一じょう買ってかえる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
春さめ、さみだれ、しぐれ、驟雨しゅうう、ゆうだち、霧雨、小糠雨こぬかあめ、そのほかにもなおあるであろう。そう云う雨のいろいろな感じのなかには、雨の音がかなりな役目をはたらいている。
雨粒 (新字新仮名) / 石原純(著)
その時仮橋ががたがたいって、川面かわづら小糠雨こぬかあめすくうように吹き乱すと、ながれが黒くなってさっと出た。といっしょに向岸から橋を渡って来る、洋服を着た男がある。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武庫川むこがわの辺まで来ると、春の小糠雨こぬかあめは急に山からと海からとの風に掻きまわされて、痛いような水粒すいりゅうが笠の下へも吹きつけてくる。——師直の馬はしばしば物驚きをしてあと退去ずさった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たにそこにもちないで、ふわりと便たよりのないところに、土器色かはらけいろして、なはてあぜばうあかるいのに、ねばつた、生暖なまぬる小糠雨こぬかあめが、つきうへからともなく、したからともなく、しつとりと
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……まもなく、二月二十六日の春寒い小糠雨こぬかあめの朝は明けていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小糠雨こぬかあめこまかいのが、衣服きものの上から毛穴をとおして、骨にむやうで、天窓あたまは重くなる、草鞋わらじは切れる、疲労つかれは出る、しずくる、あゝ、新しいむしろがあつたら、かんの中へでも寝たいと思つた
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)