小止おや)” の例文
夏野の道を旅人の小止おやみなく通っていることも聯想さるれば、その石を唯一の休み場処とする夏野の広々とした光景もうかがわれる。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いつか世の中は長雨ながさめにはいり出していた。十日たっても、二十日たっても、それは小止おやみもなしに降りつづいていた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女の散歩に出た翌朝よくあさから雨が降り出して、いつもより早く秋が来た。窓の外を見ていると、毎日朝から晩まで、ほとんど小止おやみなしに降る、細い、鼠色ねずみいろの雨の糸が見えている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
と、あねはいいました。そして、よるも、ひるも、小止おやみなくすなをまき、みずをまいていました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
運命のむちが、小止おやみもなしに私の身にふりかかって、時にはもう、ほとほと我慢のならぬほど、つらい時もあります。だのに私には、遥か彼方で瞬いてくれる燈灯ともしびがないのです。
どんよりとした重い水が、或は渦を巻き或は淀み或は瀬をなして、小止おやみもない力で流れてゆく、そういう日々が続いた。順造は心の眼をつぶって、その流れのままに身を任せた。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
小止おやみもなく紛々として降来ふりくる雪に山はそのふもとなる海辺うみべの漁村と共にうずも天地寂然てんちせきぜんたる処、日蓮上人にちれんしょうにんと呼べる聖僧の吹雪ふぶきに身をかがめ苦し山路やまじのぼり行く図の如きは即ち然り。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
舵手だしゅに令する航海長の声のほかには、ただ煙突のけぶりのふつふつとして白く月にみなぎり、螺旋スクルーの波をかき、大いなる心臓のうつがごとく小止おやみなき機関の響きの艦内に満てるのみ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
十時を過ぎた頃、一呼吸ひといきかせて、もの音は静まったが、裾を捲いて、雷神はたたがみを乗せながら、赤黒あかぐろに黄を交えた雲が虚空そらへ、舞い舞いあがって、昇る気勢けはいに、雨が、さあと小止おやみになる。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あくる二十七日には、朝の間のどうやらときの声も小止おやみになったらしいすきを見計らい、東の御方は鶴姫さまと御一緒に中御門なかみかどへ、若君姫君は九条へと、青侍あおさぶらいの御警固で早々にお落し申上げました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
胸のとどろ小止おやみめぐる血
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そういうほどにまで雨が小止おやみもなしに降りつづいたあげく、或る日、それにはげしい風さえ加わり出した。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この句は五月雨が小止おやみもなく降り続くので、ある日琵琶湖びわこに行ってみると、あの周囲七十余里といわれておる海に等しい琵琶湖でさえ水嵩みずかさが増しておるというのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あくる二十七日には、朝の間のどうやらときの声も小止おやみになつたらしいすきを見計らひ、東の御方は鶴姫さまと御一緒に中御門なかみかどへ、若君姫君は九条へと、青侍あおさぶらいの御警固で早々にお落し申上げました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
そして一日じゅう小止おやみなく降っていた。もう四月下旬だというのに何と云うことであろう。そしてそれはその翌日になっても、翌翌日になっても止まなかった。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そんな雨がちょっと小止おやみになり、峠の方が薄明るくなって、そのまま晴れ上るかと思うと、峠の向側からやっとい上って来たように見える濃霧のうむが、峠の上方一面にかぶさり
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
雪は相変らず小止おやみなく降っていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
雨のためにひさしく音信おとずれのなかった頭の君から突然道綱のもとに「雨が小止おやみになったら、ちょっと入らしって下さい、是非お会いしたい事がありますから。どうぞお母あ様には、自分の宿世すくせが思い知られました故何も申し上げませぬ、とお言付ください」
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)