かしま)” の例文
隣のつま綿わたの師匠の家は弟子やら町内の金棒曳かなぼうひきやらでハチ切れるやうなかしましさです、多分この變事の噂でもしてゐるのでせう。
それらの婦人たちが、かしましく物を言い、或いはワザとらしく囁くのが、金屏風で隔てられた次の桟敷へはよく響くのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
誰彼のうわさに夜をふかすうちに、かしましきがつねとて、誰にはかかる醜行あり、彼れにはこうした汚行ありとあげつらうを聞いて
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
またかしましく多言たげんするなかれ、みだりに外出するなかれというも、男女共にその程度を過ぐるはむべきことにあらず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「念を押すところが未だしも愛すべきですね。『かしまし』に一つ足りないなんてもの、まあこちらから願い下げだ」
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
とろとろと微睡まどろむかと思うと、お増はふとかしましい隣の婆さんの声におびやかされて目がさめた。お増は疲れた頭脳あたまに、始終何かとりとめのない夢ばかり見ていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女中達はかしましく桟敷の幕を絞って彼方あなたを見渡していた。成程、川に添って一散に、此処へ来る一隊の先頭には、大月玄蕃の馬上姿が小さく見えて来たのであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妬み半分と面白半分とで、女たちは鉄漿黒かねぐろの口々から甲高かんだかの声々をいよいよかしましくほとばしらせた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
路地へはいると、ようやく酒もりも終ったとみえ、かしましく笑ったり、あけすけにみだりがましい言葉を投げあったりしながら、女房たちが別れ別れに出てゆくところだった。
おれの女房 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
金切聲かなきりごゑで耳をつんざかれたり、それに次いでかしましい驚きの洪水でまくし立てられたりする危險をまねかないでも、安全に非常なしらせを話すことの出來る禮儀正しい、落着いた人間だつた。
地図の上ではたった二三寸の間なのに、可哀想なお母さんは四国の海辺で、朝も夜も私の事を考えて暮らしているのでしょう——。風呂から帰って来たのか、階下で女達のかしましい声がする。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
もう半町程向うにある石段のあたりではほほづき、ほうらくのかしましい叫びが起るのでしたから、私がこの悲い目に逢ふのも、一つは茶色のかうした目立つた厭な色の袢纏を着て居るからであると
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たちまちにして、近所のおかみさんのかしましい話声や、ヒステリーの様に泣き叫ぶ、其辺そのあたり病児びょうじの声にさまたげられて、私の前には、又しても、醜い現実が、あの灰色のむくろをさらけ出すのでございます。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして、この番附面の極印、やはり銀杏加藤の奥方が日下開山ひのしたかいさんの地位——その点だけにはすべてのかしましさを沈黙させ、問題はそれ以下に於て沸騰する。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
公卿口のかしましさ。殿上いずこのでも廊でも紛々ふんぷんたるざわめきである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皇太子との浮名沙汰などかしましく、他所に隠されておいでだったが、やがて年経て、はからずも尊治が万乗の君となられたので、禧子にも女御入内にょごじゅだいの宣旨がくだり、またほどなく立后の儀も挙げられて
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かしましい人の声。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何しろ、賑やかを通り越して、かしましいこと一かたでない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、忽ちかしましい眼をそばだてた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)