女形おんながた)” の例文
とうとうこんな騒ぎを仕出来しでかしたんですが、だんだん調べてみると、こいつは女形おんながたで八百屋お七を出し物にしていたんです。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
文調はおも瀬川菊之丞せがわきくのじょう(王子路考)中村松江なかむらまつえ(里公)岩井半四郎(杜若)の如き女形おんながた若しくは市川春蔵いちかわはるぞう佐野川市松さのがわいちまつの如き若衆形わかしゅがたを描けるを見るべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
源蔵げんぞうの妻よりもどこか品格がよくて、そうして実にまた、いかなる役者の女形おんながたがほんとうの女よりも女らしいよりもさらにいっそうより多く女らしく見える。
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おやじはちっともおれを可愛かわいがってくれなかった。母は兄ばかり贔屓ひいきにしていた。この兄はやに色が白くって、芝居しばい真似まねをして女形おんながたになるのが好きだった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
髭がなくて色が白く、年よりはずっと若々しくて、声や物腰が女の様で、先生の生徒達が渾名あだなをつける時女形おんながたの役者を聯想したのも無理ではないと思われる。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「これから女形おんながた演処しどころなんだぜ。居所がわりになるんだけれど、今度は亡者じゃねえよ、きてる娘の役だもの。裸では不可いけねえや、前垂まえだれを貸しとくれよ。誰か、」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
材木屋やまかわの若い者で、蔭日陽かげひなたなく働く好人物おひとよしであるがタッタ一つの病気は芝居きちがいで、しかも女形おんながたもって自任しているのが、玉にきずと云おうか、疵に玉とでも云うのか。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
宝暦ほうれき頃から明和めいわにかけて三都、頭巾の大流行おおばやり、男がた女形おんながた岡崎おかざき頭巾、つゆ頭巾、がんどう頭巾、秀鶴しゅうかく頭巾、お小姓こしょう頭巾、なげ頭巾、猫も杓子しゃくしもこのふうすいをこらして
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは仕方なしに後方の人込ひとごみに揉まれて舞台を見ると、ふけおやまが歌をうたっていた。その女形おんながたは口の辺に火のついた紙捻こよりを二本刺し、側に一人の邏卒らそつが立っていた。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「皆の衆、騒ぐことはない、主人も花嫁も無事だ。母屋の方に休んでいるよ。ここに泊ったのはこの私と八五郎だ。私は主人に化けたから無事だったが、八五郎の女形おんながたは骨が折れたぜ」
「それと『女形おんながた』ってものはこのさきどうなるんでしょう?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
それによると、団十郎はふたたび女形おんながたの舞踊を演じることが出来ない理窟であるが、それが果たして真実であろうかという疑問が頻りに起こった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
林泉りんせんのさま見事なる料理屋の座敷に尾上松助おのえまつすけ胡弓こきゅうの調子を調べつつ三絃さんげん手にせる芸者と居並び女形おんながたの中村七三、松本小次郎の二人ふたり箱引はこひきの戯れなすさまを打眺めたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女形おんながたが女よりも女らしく、人形の女形のほうが生きた女形よりもさらに女らしいという事実にも、やはり同じような理由があるのではないか。もともと男は決して女にはなれない。
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの女を役者にしたら、立派な女形おんながたが出来る。普通の役者は、舞台へ出ると、よそ行きの芸をする。あの女は家のなかで、常住じょうじゅう芝居をしている。しかも芝居をしているとは気がつかん。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あゝ、あの女形おんながたの。——すんのちょい短い……?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
かれは明治二十年の春から名題なだい俳優の一人となっていたが、とかく不遇の地位に置かれがちで、一時は立役たちやくをやめて女形おんながたに転じたいと言っていたそうであるが
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
写楽が女形おんながたの肖像は奇中きちゅう傑作中の傑作ならんか。岩井半四郎、松本米三郎よねさぶろうの如き肖像を見れば余はただちに劇場の楽屋においてのあたり男子の女子に扮したる容貌を連想す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このふたりは団十郎菊五郎という格で、殊に藤沢は女形おんながたを勤めるので一座の立女形たておやまとも見られていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その一座のうちに六三郎という女形おんながたがありました。
子供役者の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は両国の百日芝居の女形おんながたであった。