墨画すみえ)” の例文
画に彩色あるは彩色なきよりまされり。墨画すみえども多き画帖の中に彩色のはつきりしたる画を見出したらんは万緑叢中ばんりょくそうちゅう紅一点こういってんの趣あり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
何の苦心もなく一抹いちまつしたかのような墨画すみえかぶらであったが、見入っていると、土のにおいが鼻をつくばかり迫って来る。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝鮮金剛のしょうに私たちは当面したのである。この渓谷のいさぎよくしてのどかな、またこの重畳ちょうじょうたる岩峭がんしょうの不壊力と重圧とは極めて蒼古そうこ墨画すみえ風の景情である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
大抵たいていのものは絵画にしきえのなかに生い立って、四条派しじょうはの淡彩から、雲谷うんこく流の墨画すみえに老いて、ついに棺桶かんおけのはかなきに親しむ。かえりみると母がある、姉がある、菓子がある、こいのぼりがある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ランプの光射あかりさす程は、かし、ふさもじ、小さな孟宗竹もうそうちくの葉が一々緑玉に光って、ヒラ/\キラ/\躍って居る。光の及ばぬあたりは、墨画すみえにかいた様な黒い葉が、千も万も躍って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おりから淡々あわあわしいつきひかり鉄窓てっそうれて、ゆかうえあみたるごと墨画すみえゆめのように浮出うきだしたのは、いおうようなく、凄絶せいぜつまた惨絶さんぜつきわみであった、アンドレイ、エヒミチはよこたわったまま
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
宗助も二尺余りの細い松を買って、門の柱に釘付くぎづけにした。それから大きな赤いだいだい御供おそなえの上にせて、床の間にえた。床にはいかがわしい墨画すみえの梅が、はまぐり格好かっこうをした月をいてかかっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)