堆高うずたか)” の例文
客たちの前には堆高うずたかい書類がとりひろげてあった、それは主計が此の家へ来て以来、夜を日に継いで書き続けたあの記録らしかった。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
掘り起された土は穴の廻りに次第に堆高うずたかく積まれて行った。さして深くない墓穴の事とて、人夫のショベルはやがて何かに突き当った。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この木彫きぼり金彫かねぼりの様々なは、かめもあれば天使もある。羊の足の神、羽根のあるけもの、不思議な鳥、または黄金色こがねいろ堆高うずたかい果物。
その夜更よふけて、私は貨物船清見丸へ壮平親子を見送みおくりにいった。甲板かんぱん堆高うずたかく積まれたロープの蔭から私たちは美しい港の灯を見つめていた。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこでまず、ふんだとか、根だけ食い残したのぼろぎくだとか、玉菜たまなしんだとか、あおいの葉だとかいうものの堆高うずたかく積まれた上に、彼は腰をおろす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
人が住まなくなってからもう余程になると見え、舗石の間からは雑草が萌え出し、屋根から墜ちて砕けた緑色の唐瓦が、草の間に堆高うずたかく積んでいる。
枕もとにはお義理のように横文字の本を堆高うずたかく積んであるが、見ているのは大抵例の「スゥイス日記」か、ベデカアのスゥイス案内書位なものである。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そう言いながら朝野は、火鉢の曳出ひきだしのような恰好の木箱を傾けて、そのなかのねぎを、鯨鍋のなかに思いきり流し込んだ。小さく刻んだ薬味の葱は鍋のなかで堆高うずたかく山を築いた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
一方は諏訪町、駒形方面から、一方は門跡から犇々ひしひしと火の手が攻めかけて来るのだが、その間は横丁の角々かどかどは元よりいたる処荷物の山で、我も我もと持ち運んだ物が堆高うずたかくなっている。
堆高うずたかい沖の方が辛うじて空明りを反映させていた。それに海風も薄ら寒かった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「これだな」と、一行は澄ました顔をしてその前を素通りしながら、そっと横眼を使って店内みせうちを眺めると、有るわ有るわ、天幕てんと、写真器械、雑嚢ざつのうなど、一行の荷物は店頭に堆高うずたかく積んである。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
私達は十町ほど上って見たが、この山道と熔岩流の間に雑木の生茂った谷があり熔岩流はずっと堆高うずたか馬背ばせいなりに流れているので、私達の視界にはこの熔岩流の高いへりだけほか見えないのである。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
成吉思汗ジンギスカン私用の大天幕内。舞台上手寄りに、大いなる木の寝台を置き、白い羊の皮で堆高うずたかきまでに覆う。楯、鎧など、ほどよきところに飾る。正面の壁には、幼稚なる豪古地図の大いなるを掲げたり。
本屋の店頭に堆高うずたかく積まれた書物共を見て私は実際仰天した。
章魚木の下で (新字新仮名) / 中島敦(著)
かたちも留めずこわれ去ったに違いない、よしまたその全部が完きまま遺っていて、眼の前へ堆高うずたかく積みあげたとしても、それはただおびただしい土偶の数だけというだけで
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども、苦虫を噛み潰したような顔をしているその友人は、中々こんな事で承知しそうもないように思われたので、新聞社長は再びせっせと堆高うずたかい書類をあさらねばならなかった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
赤いふくれた指を窮屈そうにはさみに入れて、地面に堆高うずたかく積んだ枝豆を、味気なさそうなのろのろした手付でポツンポツンと切っていて、表から店の女たちの派手な嬌声きょうせいが聞えてくるたびに
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
一行はあまりに近くへ寄りすぎて、穴ばかりに気をとられ、傍らの堆高うずたかい土塊に気がつかなかったのです。そこから二本の足がニョッキリと出ています。全く裸の脚です。誰の足でしょう。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼はその堆高うずたかい古書の山を前に向いあっていたとき、不図ふと一つの霊感を得た。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また大きな卓子の上には、古めかしい書籍が、堆高うずたかく積んであり、それと並んで皮でつくった太鼓のようなものが置いてあった。只一つ、新しいものがあるのが目についた。それは蓄音機ちくおんきであった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)