地頭じとう)” の例文
芸妓屋おきやと親元は泣きの涙で怨んでいるが、泣く地頭じとうに勝たれない。ソレッキリの千秋楽になっている……ソイツも正にその通りだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
豪商百万両の金も、飴やおこし四文の銭も、おのがものとしてこれを守るの心は同様なり。世のしき諺に、「泣く子と地頭じとうにはかなわず」
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「冗談じゃない。このあたり三百里四方きッての、しょうのおあるじだアね。つまり地頭じとうの大旦那さまだ。よく拝んでおきなせえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
系ハ県主稲万侶あがたぬしいねまろヅ。稲万侶ノ後裔こうえい二郎左衛門尉さえもんのじょう直光知多郡鷲津ノ地頭じとうル。よっテ氏トス。数世ノ孫甚左衛門いみな繁光うつツテ今ノむらニ居ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このような立場に立った彼は、その時代に著しい荘園のための争いや、新しく権力を得た地頭じとうの百姓に対する苛斂かれんなどを、批評しようとはしない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
地頭じとうが怖いの、泣く子が怖いのというけれども、一定の殿様の下や、お代官地に生業を営んでいないおれたち。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鎌倉幕府は、守護しゅご地頭じとうを設けたが、幕府の類族をそれに当てた。封建制度はそうしてできたのである。天智のつくつた制度は、それによつて、廃されたのである。
雨しとしとと降りて枕頭ちんとうに客なし。古き雑誌を出して星野博士の「守護地頭じとう考」を読む。十年の疑一時にくるうれしさ、冥土めいどへの土産一つふえたり。(五月二十日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
他の一方から見れば地頭じとう殿の御機嫌を損ずるという危険を避ける生活上の必要があったので、言わば土地命名の動機がだんだん複雑になって行く一つの例と見られるのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さっそく竿入れをして、播種にかかったが、名子の若いやつや、舟子の陸使おかづかいどもが、せっかく無人の島へ来ながら、上から追い使われるのは面白くない。地頭じとう島主しまぬしもいらぬ。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その上、公家の荘園の方にまで地頭じとうという収税官を配置した。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
つまり凡下放埒ぼんげほうらつでも、坊主でも武士でも、敵味方なく、正成の首さえ持ってくれば、その日から船井ノ庄一郡の地頭じとうにしてやるというお布令ふれだ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの荘園はことごとくいわゆる闕所けっしょとなっておったので、朝廷ではそれぞれ処分せられ、これと同時に頼朝は朝廷に願って個々の荘園に地頭じとうを選定する特権を与えられた。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
恋愛の至情はいふも更なり、異性に対するすべての性慾的感覚を以て社会的最大の罪悪となされたる法制を戴くものたり。泣く地頭じとうには勝つべからざる事を教へられたる人間たり。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三月二十六日に讃岐の国塩飽しあく地頭じとう駿河権守高階保遠するがごんのかみたかしなやすとお入道西忍が館に着いた。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それも、黄巾こうきんをつけたお前方の仲間だ。前の地頭じとうと戦った時、残党が隠れぬようにと、みな毒を投げこんで行った」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋愛の至情はいふも更なり、異性に対するすべての性慾的感覚を以て社会的最大の罪悪となされたる法制をいただくものたり。地頭じとうには勝つべからざる事を教へられたる人間たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「泣く子と地頭じとうには勝たれねえってことを知っているかね」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すえろよ。さっきの高札場こうさつばで、てめえはあれを読んでいなかったのか。楠木の首一ツには、一躍、地頭じとうさまにもなれるほどな恩賞がかかッてるんだ。そんな運を
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左馬頭さまのかみの一族、そのほか源氏の家人どもが、えにかてを求め、矢傷に薬を乞いなどして見えたる折は、親切顔して、小屋へ入れよ、入れ置いてすぐ、地頭じとうへ訴え出るなり
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武家幕府がおこってからは、兵馬の権はもとより、政治は一切、朝廷を骨ヌキにして奪われ去り、全国の土地、貢税こうぜいなども、武家支配下の守護しゅご地頭じとうにおさえられて、みかどの御料や公卿
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地頭じとうや地方の官吏も、防ぎようはなく、中央の洛陽らくようの王城へ、急を告げることもひんぴんであったが、現下、漢帝の宮中は、頽廃たいはいと内争で乱脈をきわめていて、地方へ兵をやるどころではなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一先ず九州の地頭じとうとして、都を去ることになったのである。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにやら地頭じとうの行列でも迎えるようなさまだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)