土埃つちほこり)” の例文
十日あまり照り續いた往來の土埃つちほこりを、少々長刀なぎなたになつた麻裏草履に蹴飛ばして、そのまゝ拭き込んだ上がりかまちに飛び上がるのですから
次郎を抱き起こしたお浜は、土埃つちほこりにまみれた彼の鼻と唇のあたりに、ほんの僅かではあったが血がにじんでいるのを見つけたのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私の眼前めのまえには胡麻塩ごましお頭の父と十四五ばかりに成る子とが互に長いつちを振上げてもみを打った。その音がトントンと地に響いて、白い土埃つちほこりが立ち上った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長安で北支那の土埃つちほこりをかぶって、濁った水を飲んでいた男が台州に来て中央支那の肥えた土を踏み、澄んだ水を飲むことになったので、上機嫌である。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おんあるじ、大いなる御威光ごいこう、大いなる御威勢ごいせいを以て天下あまくだり給い、土埃つちほこりになりたる人々の色身しきしんを、もとの霊魂アニマあわせてよみ返し給い、善人は天上の快楽けらくを受け
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
家垣のひともと木槿むくげし開くただちを土埃つちほこり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
これは車の輪の跡です! 保吉は呆気あっけにとられたまま、土埃つちほこりの中に断続した二すじの線を見まもった。同時に大沙漠の空想などは蜃気楼しんきろうのように消滅した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
安五郎とお竹が逢引あひびきしてゐる僅かの隙にお咲の部屋に忍び込んで、あんなむごたらしいことをし、それから喜三郎の寢卷を土埃つちほこりすゝで汚して置いたんだらう。
さてりよ台州たいしう著任ちやくにんしてから三日目かめになつた。長安ちやうあん北支那きたしな土埃つちほこりかぶつて、にごつたみづんでゐたをとこ台州たいしう中央支那ちゆうあうしなえたつちみ、んだみづむことになつたので、上機嫌じやうきげんである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
家垣のひともと木槿むくげし開くただちを土埃つちほこり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つうや(保吉は彼女をこう呼んでいた)は彼を顧みながら、人通りの少い道の上をゆびさした。土埃つちほこりの乾いた道の上にはかなり太い線が一すじ、薄うすと向うへ走っている。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
平次は彦兵衞を起してやつて、その胸から膝へ一面に附いた土埃つちほこりを拂つてやりました。
つうやは前のように道の上をゆびさした。なるほど同じくらい太い線が三尺ばかりの距離を置いたまま、土埃つちほこりの道を走っている。保吉は厳粛に考えて見たのち、とうとうその答を発明した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、變る道理がない。眼の前で黒助が拾つて、土埃つちほこりを拂つて渡してくれたのだ」
額には人の目につく赤いあざがあり、虫喰ひ頭は藁しべで結ひ上げて、朝のせゐかひどくは土埃つちほこりも被つては居りません、身扮みなりも乞食にしては見られる方、右足を昆布卷にして、身近には二本の杖を置き
「牡丹刷毛だよ。うんと土埃つちほこりが付いてゐるが——」