けん)” の例文
旧字:
すなわち土俵を作り、それを標準とするが、この土俵なるものは天然てんねんに定まれる一定不易ふえきけんでなく、人為的に仮りに定めたるに過ぎぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なぜならば、今、上月城にたてこもっている尼子一族の孤軍は、織田家を頼って、数年来、その先駆的な役割を、毛利勢力けんの敵地につとめて来たものだ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次いで死の廻りに大きいけんゑがいて、震慄しんりつしながら歩いてゐる。その圏がやうやく小くなつて、とうとう疲れた腕を死のうなじに投げ掛けて、死と目と目を見合はす。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と、その一つの月の光のけんへ一人の女が現われた。痩せ細った身体、痩せ細った顔、髪は乱れて肩へかかり、裾は崩れてはぎを現わし、見る影もなくやつれている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、十問中七問以上が確実に出来なければ及第けんにはいらない、というのが次郎たちの常識だった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ぽうっと仄白ほのじろ網膜もうまくに映じた彼にはそれが繃帯とは思えなかったつい二た月前までのお師匠様の円満微妙な色白の顔がにぶい明りのけんの中に来迎仏らいごうぶつのごとくかんだ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふっと気がついて見るともう北極けんに入っているんだ。海は蒼黝あおぐろくて見るから冷たそうだ。船も居ない。そのうちにとうとう僕たちは氷山を見る。朝ならそのかどが日に光っている。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この地方一帯は、足利家の管領斯波しば氏のわかれ最上一族の勢力けん内であった。甚助の父も、最上家の臣だった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
処罰の範囲はんいが最小限度に食いとめられ、自分たちはそのけん外に立ちたいという、無意識的な希望的観測から、自然、次郎というのっぴきならないらしい「犯罪者」と
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
うすら寒く廣々とした座敷の中に屏風びょうぶを囲って、四方から詰め寄せる真っ黒な夜の闇を燈心の灯で防ぎながら、その、ぽつりと一点水に油をらしたようなわずかな明りのけんうち
自分はその後、諸国をめぐって、あらゆる反信長けん連繋れんけいに成功した。中国の毛利どのもこれに加盟した。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は体じゅうの衣類を全部キレイにぎ取られ、一絲も纏わぬ姿にされて仰向けにかされ、フローアスタンドと、枕元の螢光燈のスタンドとが青白いけんを描いている中に曝されていた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は、陣中第一の駿足を選んでそれにまたがり、一鞭を加えて、敵の包囲けんへ駈けこんで行った。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
スタンドの光線を遮蔽しゃへいして、室内のほんの一部分だけを、辛うじて新聞が読める程度に明るくしてあるのだが、その明るい光のけんの端の方に、ライラックが仄白ほのじろにおっている、———その白い影を
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
逐日ちくじつ、織田遺業の勢力けんに、秀吉なる名が、何とはなく、澎湃ほうはいたる威勢をもって聞え出して来たことは、勝家として、到底、晏如あんじょとしているに忍びない現象であるのだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
備前、美作みまさかの二州を擁して信長勢力と毛利けん内との、ちょうど中間にある山陽の宇喜多家は、或る意味での中国の将来は、その向背こうはいによって定まるといっても過言ではないのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦国の焦土しょうどから、徳川覇府の建設へと、政治的な幾変転が繰り返される間にも、文化の炬火きょかは、煌々こうこうと絶ゆることなく燃やし続けられたが、その文化けんの最も輝かしい光芒は、幽斎細川藤孝ふじたか
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ成算はあったにしろ、一族悉皆しっかいでもわずか百五十騎という小勢で起ったその勇気は驚目にあたいする。——それも四隣すべて北条勢力けんとみられていた関東平野のまん中から起ったのだ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)