よっ)” の例文
その光によって又もや穴の中を窺うと、底の底は依然として真暗まっくらであったが、彼は幸いに或物を見出した。それは一条の細い綱である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よって金貸の豪商に対しては、武士の威厳も何も無く、番頭風情に対しても、頭を下げて、腫物にさわるようにしていたのである。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
系ハ県主稲万侶あがたぬしいねまろヅ。稲万侶ノ後裔こうえい二郎左衛門尉さえもんのじょう直光知多郡鷲津ノ地頭じとうル。よっテ氏トス。数世ノ孫甚左衛門いみな繁光うつツテ今ノむらニ居ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
古語は元禄時代にありて芭蕉一派が常語との調和を試み十分に成功したる者、今は蕪村によって更に一歩を進められぬ。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
よって臣勇を奮いすすみ窺いて、確かに妖蟒ようもうを見る。頭、山岳の如く、目、江海に等し。首をぐればすなわち殿閣ひとしく呑み、腰を伸ばせば則ち楼垣尽くくつがえる。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ただし景鶴山は上州戸倉の称呼で、書上には形状鶴のたたずむが如しとあって、あたかも形によって名付けたように書いてあるが、『藤原温泉記行』には平鶴山となっている。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一時は口もかれぬ程の重態であった坑夫ていの負傷者も、医師の手当てあてよって昨今少しく快方に向ったので、警官はただちに取調とりしらべを始めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蕪村は総常両毛りょうもう奥羽など遊歴せしかども紀行なるものを作らず。またその地に関する俳句も多からず。西帰さいきの後丹後たんごにをること三年、よって谷口氏を改めて与謝よさとす。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして山名のよって起るに至った烏帽子に似た山を其範囲で物色したならば、山稜上に八十米の円錐塔を押立てている朝日岳は、他の紛らわしい候補者を一蹴して、正しく其座を占むべきものであろう。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
従って、狐は人間に化けるどころか、修煉しゅうれんよっては仙人ともなり、あるいは天狐などというものにもなり得ることになっている。
妖怪漫談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
市郎は医師の手当てあてよって、幸いに蘇生したので、すぐふもとき去られていたが、安行とお杉と𤢖との三個みつの屍体は、まだ其儘そのままに枕をならべていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
犬は頸環によって、その幸と不幸とが直ちに知られる。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)