四阿あづまや)” の例文
で、二人は時間が早過ぎたのに気づいて、遠慮深く眼を覆つて庭隅の四阿あづまやで莨を喫してゐると、百合子は切りと歌をうたつてゐた。
まぼろし (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
のぞくと、やまさかひにした廣々ひろ/″\としたにはらしいのが、一面いちめん雜草ざつさうで、とほくにちひさく、こはれた四阿あづまやらしいものの屋根やねえる。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やがて一同暇乞ひして、斯の父の永眠の地に別離わかれを告げて出掛けた。烏帽子、角間かくま四阿あづまや、白根の山々も、今は後に隠れる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
崖によつて建てられた四阿あづまやらしいのゝ、積れる雪の重みにおしつぶされたのがあつた。「夏は好いですが喃」と軍人は此時初めて自分に声を掛けた。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
泉水のほとりにも、数奇を凝らした四阿あづまやの中にも、モーニングやフロックを着た紳士や、華美な裾模様を着た夫人や令嬢が、三々伍々打ち集うてゐるのだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
泉水の末を引きて𥻘々ちよろちよろみづひくきに落せるみぎはなる胡麻竹ごまたけ一叢ひとむら茂れるに隠顕みえかくれして苔蒸こけむす石組の小高きに四阿あづまやの立てるを、やうやう辿り着きて貴婦人はなやましげに憩へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
瓢箪へうたんなりの池も澄んでゐれば、築山つきやまの松の枝もしだれてゐた。栖鶴軒せいかくけん洗心亭せんしんてい、——さう云ふ四阿あづまやも残つてゐた。池のきはまる裏山の崖には、白々しろじろと滝も落ち続けてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
水のほとりの四阿あづまやに 翁が琴を彈いてゐる
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
四阿あづまやのにほひと色彩いろめられて
ピアノ (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
みづかげもさゝぬのに、四阿あづまやをさがりに、二三輪にさんりん眞紫まむらさき菖蒲あやめおほきくぱつといて、すがつたやうに、たふれかゝつたたけさをも、いけ小船こぶねさをさしたやうに面影おもかげつたのである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いはんや彼等のゐる所に、築山や四阿あづまやのあつた事は、誰一人考へもしないのだつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
殊に、あの四阿あづまやの建て方なんか厭ですね。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
校長は時々長男と、新しい果樹園を歩きながら、「この通り立派に花見も出来る。一挙両得ですね」と批評したりした。しかし築山や池や四阿あづまやは、それだけに又以前よりは、一層影が薄れ出した。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)