いた)” の例文
新字:
人の心を優しくいたはるやうな温かさは微塵もなく、カルヴィン派の信條——神の選拔、宿命、定罪——の峻烈な暗示が頻々と出て來た。
御米およねはかう宗助そうすけからいたはられたときなんだか自分じぶん身體からだわることうつたへるにしのびない心持こゝろもちがした。實際じつさいまた夫程それほどくるしくもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
打擲致す程の次第なれば今と成ては勿々なか/\すぐ素直すなほには出すまじけれ共餘り其許おまへいたはしさに此事を内々知せ申すなりと云ければ老人は是を聞て力を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「君の評判はよく聞いてゐる。あんなになるには隨分苦勞したべ」と彼は優しくいたはるやうに言つた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
八五郎はそれをいたはるやうに、小腰を屈めて、白々と夜霧に包まれた娘の顏を覗きました。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ところどころは俥を下りて、車夫をいたはり、ひろひ歩きして、南畫にかまほしき秋の山々の黄葉を拂ふ風に旅衣を吹かれつゝ、そのわたりの溪山の眺めは私をして容易く立去りかねしめるであらう。
伊賀、伊勢路 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
いたはり爰を下らせしが大岡殿は早々右の趣きを老中らうぢう方へ申立られ不日ふじつ評定所ひやうぢやうしよに於て吟味有べきとの事なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
八五郎もすつかり劇的な心持になつて、お縫をいたはり乍ら、死骸に眼を移しました。
うも御苦勞ごくらうさま。つかれたでせう」と御米およね小六ころくいたはつた。小六ころくそれよりも口淋くちさむしいおもひがした。此間このあひだ文庫ぶんことゞけてやつたれいに、坂井さかゐかられたと菓子くわしを、戸棚とだなからしてもらつてべた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
進め居たりしが今老人の突出つきいだされしを見て餘りのいたはしさの儘彼の老人を小蔭こかげ指招さしまね其許おまへ先刻さつき豐島屋にて酒を飮歸りし跡に何かは知ず木綿もめんの財布らしき物落て有しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「まア、さう言はずにに、皆んなでいたはつてやるが宜い」
平次の眼は、この清潔な老女をいたはります。
さすがにその調子には、いたはりがあります。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)