人好ひとよ)” の例文
時としては、わたしのやることを面白がって見ているばかりでなく、鷓鴣がどっちへ行ったかを教えてくれるお人好ひとよしの百姓である。
「日曜日に東京の銀行へ……。」娘の辰子はぢつと母の顔を見詰めてゐたが、いかにも口惜しさうに「かアさん、お人好ひとよしねえ。」
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
していないとは云えません。彼奴あいつあんなお人好ひとよしな顔をしていて、心ではどんな血みどろな美しい悪事を企らんでいまいものでもありません
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あげくに、お人好ひとよしの中島健蔵などへ、ヤイ金をかせ、と脅迫に行くから、健蔵は中也を見ると逃げだす始末であった。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
……兄はお人好ひとよしなもんで、一向気がつかないの。……だから、あたしからよくいってやりましたわ。……あれは、たいへんなお嬢さんなのよ、って。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とお人好ひとよしのレベジャートニコフは、またしてもルージンに好感の増してくるのを覚えながら感嘆の叫びを上げた。
平生へいぜいからお人好ひとよしで、愚圖ぐづで、低能ていのうかれは、もともとだらしのないをとこだつたが、いままつた正體しやうたいうしなつてゐた。かれ何度なんどわたしかたたふれかゝつたかれなかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
子供らしい処女らしい恥らいを、その儘に受け入れていた自分が、あまりにお人好ひとよしのように思われ始めた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
人々は我を善人とし、我に棄て難き機根ありとして、競ひて自ら教育の任を負へり。恩人はその恩を以て我に臨みて我師たり。恩人ならぬ人はわが人好ひとよきに乘じてせんして我師となれり。
この美少年は不良をてらっているが根が都会っ子のお人好ひとよしだった。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
穿うがったような見方をするようでいて、実は大変に甘いお人好ひとよしである点なども、その一つであろう。三造も時に他人ひとから記憶が良いと言われることがあるが、これも伯父から享けたものかも知れない。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「もったいねえくれいお人好ひとよしだなア」——と。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へえ。相済みませぬ。御名物のお殿様でごぜえますから、ちょくに申しまするが、名前は人好ひとよし長次、まとまった金がころがりこむと、じきにうれしくなって人にバラ撒いちまいますんで、この通り年がら年中文なしのヤクザ野郎でごぜえます」
エロア——つまり、お人好ひとよしというわけだ。よろしい。だからその仕返しをしてやる。
中根熊吉なかねくまきちの「うまさん」は二年兵ねんへいの二等卒とうそつで、中隊ちうたいでもノロマとお人好ひとよしとで有名いうめいだつた。教練けうれん度毎たびごとにヘマをやつて小隊長せうたいちやう分隊長ぶんたいちやう小言こごとはれつづけだつた。戰友達せんいうたちにもすつかり馬鹿ばかにされてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
らず口はいかげんにおし。それをまた、あたしが聴いてるからだ、お人好ひとよしみたいに。じゃ、なにかい、おじさんの志を無にしようっていうんだね。そんなにお前を甘やかしてくれるのに……。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
彼らは一生、いつまでたってもちっとばかりお人好ひとよしである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
僕あ、やっぱりお人好ひとよしなんだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)