乳首ちくび)” の例文
飢饉ききんのときに、ちちの出なくなったおかあさんの乳首ちくびを、くわえたまま死んだ子もいるし、ぎっしりつまった三等車とうしゃの人いきれの中で、のどがつまって死んだ子もいる。
又ヨチヨチとい寄って、ポッチリと黒い鼻面でおなかを探りまわり、漸く思う柔かな乳首ちくびを探り当て、狼狽あわててチュウと吸付いて、小さな両手でて揉み立て吸出すと
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして雪さんの背から子供をおろして、路傍みちばた土手どて芝生しばふの上に腰をかけ、まだ眠っている子を揺り起して、しゃくり込むように泣きながら乳首ちくびを無理に子供の口に押し込んだ。
「とてもゴムの乳っ首くらいじゃ駄目なんですもの。しまいには舌を吸わせましたわ」「今はわたしの乳を飲んでいるんですよ」妻の母は笑いながら、しなびた乳首ちくびを出して見せた。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無残むざんや、なかにもいのちけて、やつ五躰ごたい調とゝのへたのが、ゆびれる、乳首ちくびける、みゝげる、——これは打砕うちくだいた、をのふるつたとき、さく/\さゝらにざう
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
深い眼睫まつげの奥から、ヴィーナスはけるばかりに見詰められている。ひややかなる石膏せっこうの暖まるほど、まろ乳首ちくびの、呼吸につれて、かすかに動くかとあやしまるるほど、女はひとみらしている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その病気にかかると特に肌が美しくなるというが、おしのの肌はまえよりも白く、てのひらの中へはいりそうな乳房ちぶさは、文字どおり透きとおるようで、乳首ちくびのまわりの薄い樺色かばいろが、際立ってなまめかしくみえた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)