顔色がんしよく)” の例文
旧字:顏色
何んでも妻君の顔色がんしよくが曇つた日は、この一校の長たる人の生徒を遇する極めて酷だ、などいふ噂もある位、推して知るべしである。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たゆむとも折るべからざる堅忍の気は、沈鬱せる顔色がんしよくの表に動けども、かつて宮を見しやうの優き光は再びそのまなこに輝かずなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
面白おもしろげなる顔色がんしよく千番せんばんに一番さがすにも兼合かねあひもうすやらの始末しまつなりしにそろ度々たび/″\実験じつけんなれば理窟りくつまうさず、今もしかなるべくと存候ぞんじそろ愈々いよ/\益々ます/\しかなるべくと存候ぞんじそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
環女史は一口言つたまゝ菜つ葉のやうな顔色がんしよくをして席を立つた。浜田氏は殉難者のやうな眼つきでその後姿を見送りながら、そゝつかしい自分の口許くちもとひねつた。
菊の花の競進会も同じ画堂ぐわだうの一室を占めて居る。これを観ると日本の菊作りは最早もはや顔色がんしよくが無い気がする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それがしの顔色がんしよくすくなからず憂鬱いううつになつたとえて、博士はかせが、かたかるけるやうにして、「大丈夫だいぢやうぶですよ、ついてますよ。」熟々つら/\あんずれば、狂言きやうげんではあるまいし、如何いか名医めいいといつても
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それだけならばこのやみの中に、いまほどおれも苦しみはしまい。しかし妻は夢のように、盗人に手をとられながら、藪の外へ行こうとすると、たちまち顔色がんしよくを失ったなり、杉の根のおれを指さした。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「恐くじや。さう云ふ気持の事は、この幾年間に一日でも有りはせんのぢやらう。君の顔色がんしよくを見い! まるで罪人じやぞ。獄中に居る者のつらじや」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこに居並んでゐた連中はみんな懐中ふところにそれ/″\短冊を忍ばせてゐたが、なにも引裂かないでは承知し兼ねまじき高浜氏の顔色がんしよくを見て、誰一人それを取出さうとはしないで
そぞろゑみもらせる顔色がんしよくはこの世にたぐふべきものありとも知らず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
王は急に顔色がんしよくを和げて、隠しから球を取出してくれた。