面色かおいろ)” の例文
下島は面色かおいろが変った。「そうか。返れと云うなら返る。」こう言い放って立ちしなに、下島は自分の前に据えてあった膳を蹴返けかえした。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やや明け方の光で見たこの少年の面色かおいろが、いやに沈み切っていることに、またなんとなく胸を打たれないわけにはゆきません。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
頤骨あごぼねとがり、頬がこけ、無性髯ぶしょうひげがざらざらとあらく黄味を帯び、その蒼黒あおぐろ面色かおいろの、鈎鼻かぎばなが尖って、ツンとたかく、小鼻ばかり光沢つやがあって蝋色ろういろに白い。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その面色かおいろ蒼白そうはくで、唇は紫色だった。ひょいと見ると夫人は右手に何かをぶら下げているのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と云いましたが、たちまち面色かおいろ真青まっさおになり、おど/″\口もきかれません様子。
妻君に面会を乞うに、未だ一面識無きのみならず、大に怪むが如し。此れは予が半体以上は泥水にけがれ、面色かおいろも或は異様なりしなるべし。然れども強て尊親氏の面会を乞う。近隣にありて、帰宅す。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
そこで今度は又その次ぎの奴に横風をきめ込み、又その次ぎには丁寧に出掛け、一切いっさい先方の面色かおいろに取捨なく誰でもただ向うから来る人間一匹ずつ一つ置きとめて遣て見た所が、およそ三里ばかり歩く間
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
書院に待たせられていると、ほどなく例の千隆寺の若い住職が、まばゆいほどくれないの法衣をそのままで、極めてくつろいだ面色かおいろをして現われ
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一通り眼を通してしまうと米友の面色かおいろが変ります。驚いた時にいつもするように、猿のような眼がクルクルとまわります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お杉はお玉の面色かおいろをうかがうようにしたが、お玉は真直ぐに向いたきりで何とも言わなかったから、お杉はまた
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時に面色かおいろは蒼ざめていました。足許がよろよろするのを、かろうじて刀を杖にして立ったように見えました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
米友は無言で何か反省を試むるような気色けしきでありましたが、なにぶんせない面色かおいろを拭うことができません。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お絹はどこまでも殊勝な面色かおいろと、武家の奥様という品格を崩さないつもりで、身の上話をはじめました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あのお面色かおいろ、あの髪飾りの鼈甲べっこうの、水のしたたるような襟足えりあしの美しさ、あのお紋付、あのお召物、あの模様……ほんにお館様やかたさまのお姫様とても、これほどのことはおありなさるまい
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
神尾が何ともいえない不快な面色かおいろになって、ひとりでじれ出してくるのが例になっています。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といって出かけようとすると、丁度、そのあけてはならないといった方角の縁の下あたりで、うなる声が聞えました。この唸る声を聞くと、早くも面色かおいろを変えたのが茂太郎で
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お松は、お君が面色かおいろを変えたことを、それほどには気にしないで番組を借りて見ながら
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何事でしょう、火はもうしずまったのに、人の面色かおいろにまだ険悪の色が消え失せないのは。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
血みどろな形相ぎょうそうを想い出すと、さすがにいい気持はしないで、一時は面色かおいろを変えてみたが、それが静まると、かえって今度は反抗的に、一種の痛快味をさえも覚ゆるようになりました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あっと面色かおいろを変えたものもある、なあーにとさあらぬていに落着いて見せるのもありました。しかし大変は大変でありました。旅に来て路用を失くすることは誰にしても好い心持はしない。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兵馬の言葉が濁って、その様子がしおれるのを見たお君の面色かおいろに不安があります。
席の一隅に、思わず、あっ! と叫んで面色かおいろを変えたものが六人ありました。この六人は、あっ! と言って面の色を変えて、我を忘れて和尚と同じように、自分たちの頭を撫でました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
娘は、倒れるように縁側へつかまって、面色かおいろも変り、唇がわなないて見えます。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お松は丁寧に兵馬にお茶をすすめたが、兵馬の浮かぬ面色かおいろをそっとながめて
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柱にもたれて、うつらうつらとしている竜之助の面色かおいろを見ると、痛々しいほどにしおれている。いつも悄れているような人で、それで弱い人でもないのだが、今宵は一層悄れているように見える。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
弁信がこう言って、まだ草鞋の紐がとききれないでいる時、例の小笹の崖道がまたざわざわとざわめいて、そこから現われたのは、常と少しも変りのない面色かおいろをしたお雪ちゃんの姿でありました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
気狂きちがいじみているにかかわらず、この小坊主だけが、泣くにも泣かれない面色かおいろを遠くから見ると、ちょうど、ところが千住の小塚原であるだけに、さながら屠所としょの歩みのような小坊主の気色けしきを見ると
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
米友は感慨無量の面色かおいろで、勢州街道の方に向ってうそぶきました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お絹は、なんとなくあきれたような面色かおいろです。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)