青簾あおすだれ)” の例文
一人が、酔ったまぎれに、彼の手から竹刀と風呂敷づつみの免状を奪って、青簾あおすだれの出窓から、知らぬ家の中へ、ほうりこんでしまった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒並に青簾あおすだれを掛け連ねた小諸本町の通りが私の眼前めのまえにあるような気がして来た。その辺は私の子供がよく遊び歩いたところである。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
明治初年の夏の夜には両国橋畔に船を浮かべて、青簾あおすだれのうちも床しい屋根船のお客へ、極彩色の雲雨巫山の写し絵を見せたものだという。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あなたの二階の硝子窓がらすまどおのずから明るくなれば、青簾あおすだれ波紋なみうつ朝風に虫籠ゆらぎて、思い出したるように啼出なきだ蟋蟀きりぎりすの一声、いずれも凉し。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お玉の家では、越して来た時掛け替えた青簾あおすだれの、色のめるひまのないのが、肱掛窓ひじかけまどの竹格子の内側を、上から下まで透間すきまなく深くとざしている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
虫籠、絵団扇えうちわ蚊帳かや青簾あおすだれ風鈴ふうりん葭簀よしず、燈籠、盆景ぼんけいのような洒々しゃしゃたる器物や装飾品が何処の国に見られよう。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小高い丘に、谷から築き上げた位置になって、対岸むこうへ山の青簾あおすだれ、青葉若葉の緑の中に、この細路を通した処に、冷い風がおもてを打って、爪先つまさき寒うたたえたのである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏の日などそこを通ると、垣に目の覚めるようなあかい薔薇ばらが咲いていることもあれば、新しい青簾あおすだれが縁側にかけてあって、風鈴ふうりんが涼しげに鳴っていることもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
青簾あおすだれを背後に縁へ出て、百合と蝦夷菊との咲いている花壇を、浪之助はぼんやり眺めながら、昨日きのう一日に起伏した事件を、どう統一したらよかろうかと、一つは暇、一つは興味、一つは自分の将来に
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこを上りきったところまで行くと軒毎に青簾あおすだれを掛けた本町の角へ出る。この簾は七月の祭に殊にふさわしい。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一時ひとしきり、芸者の数が有余ったため、隣家となりの平屋を出城にして、桔梗ききょう刈萱かるかや女郎花おみなえし、垣の結目ゆいめ玉章たまずさで、乱杙らんぐい逆茂木さかもぎ取廻し、本城のてすり青簾あおすだれは、枝葉の繁る二階を見せたが
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祗園ぎおんの祭には青簾あおすだれを懸けてははずし、土用のうしうなぎも盆の勘定となって、地獄の釜のふたの開くかと思えば、じきに仏の花も捨て、それに赤痢の流行で芝居の太鼓も廻りません。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
渺々びょうびょうたるに、網の大きく水脚を引いたような、斜向うの岸に、月村のそれらしい、青簾あおすだれのかかった、中二階——隣に桟橋を張出した料理店か待合の庭の植込が深いから、西日を除けて日蔭の早い
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階の青簾あおすだれ枝折戸しおりどの朝顔、夕顔、火の見のかりがね、忍返しの雪の夜。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)