間数まかず)” の例文
旧字:間數
と、書面を託送すべくそこを立って、間数まかずを越えてゆくと、ふいに、陰気な夕明りのただよう奥殿にあたって異様なうめき声が洩れる……。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間数まかずが三十ちかくもあるであろう。それも十畳二十畳という部屋が多い。おそろしく頑丈がんじょうなつくりの家ではあるが、しかし、何の趣きも無い。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
家の間数まかずは三畳敷の玄関までを入れて五間、手狭てぜまなれども北南吹とほしの風入かぜいりよく、庭は広々として植込の木立も茂ければ、夏の住居すまゐにうつてつけと見えて
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それでも垣をめぐらして四方から切り離した独立の一軒家です。窮屈ではあるが間数まかずは五つほどあります。兄さんと私は一つ座敷にった一つ蚊帳かやの中に寝ます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クランチャー君の借間アパートメントは附近が悪臭のない場所ではなかった。そして、たといたった一枚だけの硝子板の嵌っている物置を一室に数えるとしても、間数まかずは二つきりであった。
やがて通されたのは、この廊下を東の方へさらに、間数まかず四つ五つも越えた奥座敷である。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
全くわるくないね。間数まかずはと? ぼく書斎しよさいけん用の客に君の居間ゐま食堂しよくだうに四でふ半ぐらゐの子ども部屋べやが一つ、それでたく山だが、もう一つ分な部屋へやが二かいにでもあれば申分なしだね。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
高い処に照々きらきらして間数まかず十ばかりもござりますのを、牛車うしぐるまに積んで来て、背後うしろおおきな森をひかえて、黒塗くろぬりの門も立木の奥深う、巨寺おおでらのようにお建てなされて、東京の御修業さきから
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草屋八九間、東坡数間屋、結廬十余間は、みな間数まかずを示したものである。
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
母親の内職に出さした素人下宿も間数まかずが少く、まだ整ってもいなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
間数まかずを越えて忍んでゆきながらも、ふすまのあとは、いちいち元通りに閉めては行くが、たたみざわりの足音はおろか、ちりのこぼれる足音もさせない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからお二階に大きいベッドのいた来客用の洋間が一間、それだけの間数まかずだけれども、私たち二人、いや、直治が帰って三人になっても、別に窮屈でないと思った。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
氷見鯖ひみさばの塩味、放生津鱈ほうじょうづだら善悪よしあし、糸魚川の流れ塩梅あんばい、五智の如来にょらい海豚いるか参詣さんけいを致しまする様子、その鳴声、もそっと遠くは、越後の八百八後家はっぴゃくやごけの因縁でも、信濃川の橋の間数まかずでも
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この家は、貧乏百姓に似ず、間数まかずはたくさんあった。日吉の母の縁者が住んでいた家だからである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、奥書院まで、幾室かの間数まかずを通って検分したところでは、格別目星めぼしい品物もなく、奇抜な仕返しの手段も思い当らないので、今かれは、とこの間に腰をおろすと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)