長手ながて)” の例文
へやの真中にはすみの方に置いてあった机が出ていて、その上にさきの女が首ばかりになって白い長手ながてな顔をこっちに向けてにっと笑っていた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
入違いれちがつて這入はいつてたのは、小倉こくらはかま胸高むなだか穿締はきしめまして、黒木綿紋付くろもめんもんつき長手ながて羽織はおりちやくし、垢膩染あぶらじみたる鳥打帽子とりうちばうしかぶり、巻烟草まきたばこくはへてながら、書生
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
長いことお三輪が大切にしていた黒柿くろがき長手ながての火鉢も、父の形見として残っていた古い箪笥たんすもない。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一〇八まどかみ松風まつかぜすすりて夜もすがら涼しきに、一〇九みち長手ながてつかうまねたり。
真女児は、「我身おさなきより、人おおき所、あるいは道の長手ながてをあゆみては、必ず気のぼりてくるしきやまいあれば、従駕ともにぞ出立いでたちはべらぬぞいとうれたけれ」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
都の人も見ぬをうらみに聞え侍るを、我が身をさなきより、人おほき所、あるは道の長手ながてをあゆみては、必ず二五五のぼりてくるしき病あれば、二五六従駕みともにえ出で立ち侍らぬぞいとうれたけれ。
汚い二階のへやには公園かられて来た女が淋しそうに坐っていた。微暗うすぐらい電燈の光を受けた長手ながてな色の白い顔にはおずおずした黒い眼があった。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二十二三に見える長手ながてな顔をした淋しそうな女で、白っぽい単衣ひとえものの上に銘仙めいせんのような縦縞たてじま羽織はおりを引っかけていた。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
長手ながてな重みのある、そしてどこかなまめかしいところのある顔を見せて、洋服の男の背後うしろの方から出ようとするふうで、長い青っぽい襟巻えりまきの襟をき合せていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
紫の目立つ銘仙めいせんかなにかの華美はでな模様のついた衣服きもので、小柄なその体を包んでいた。ちょっと小間使か女学生かと云うふうであった。色の白い長手ながてな顔に黒い眼があった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼の前にはあお長手ながてな顔の紫色の唇をした大柄おおがらな女の姿が浮んでいた。
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこには電燈の明るい洋館の二階があって、その窓から長手ながてな顔の女が胸から上を見せていた。女の顔はにっと笑った。謙作はその女の顔に見覚えがあるようであったからじっと眼をめて見た。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「……木村さん」女は長手ながてな顔をあげてすかすようにして
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
若い長手ながてな顔をした女であった。
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)