長居ながい)” の例文
「——だから、ここにも長居ながいはできん。ひと言、これだけを貴公に告げてゆくから信じてくれい。きっと、拙者のことばを、疑ってくれ給うな」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長居ながいはめんどうと思ったものか、阿修羅あしゅらのごとき剣幕けんまくで近く後日の再会を約すとそのまま傾く月かげに追われて江戸の方へと走り去ったのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「つい、長居ながいして。」と、おしょうさんは、あいさつして、縁側えんがわてから、にわのさるすべりを、ほめてかえりました。
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
岡は始めて来た家に長居ながいするのは失礼だと来た時から思っていて、機会あるごとに座を立とうとするらしかったが
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は暫く静子と私丈けの話題(春泥捜索のこと)について話合ったのち、十一時頃であったか、余り長居ながいをしては、召使の手前もあるので、別れを告げて
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三日ばかりって夜分村長は富岡老人をうた。機会おりを見に行ったのである。然るに座に校長細川あり、酒が出ていて老先生の気焔きえんすこぶすさまじかったので長居ながいずにかえって了った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
結局、奥畑に打つかる心配がなければ行くのもよいが、長居ながいをしないで帰って来なさい、なるべくならこいさんも、そういつ迄も附けて置かないで、お前が帰る時に連れて帰りなさい
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
又は露多き苔道こけみちをあゆむに山蛭やまびるひいやりとえりおつるなど怪しき夢ばかり見て覚際さめぎわ胸あしく、日の光さえ此頃このごろは薄うなったかと疑うまで天地を我につれなき者のよう恨む珠運しゅうん、旅路にかりそめの長居ながい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「でも僕、そんなに長居ながいしたかい?」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
案内の宿に長居ながい菌狩きのこがり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「今朝がたは、どんなご容体でございますな。夜前はちと、ごきげんにまかせて、お相手とはいえ、長居ながいを仕りましたから、どうかと、あとでお案じして退がりましたが」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なれども長居ながいは無用とおぼしめされましたか、御ひょうじょうがおわりますと、夜半やはんにきよすをしのんでおたちのきあそばされ、みのゝくに長松をすぎてながはまへおかえりなされまして
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この日も、家康は、信雄の長居ながいを退屈そうに、生欠伸なまあくびをかみころしているだけだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「浜松から遠くもない、こんな小島に長居ながいは危険です。わたくしの考えでは、夜のあけぬまえに、渥美あつみの海へこぎだして、伊良湖崎いらこざきから志摩しまの国へわたるが一ばんご無事かとぞんじますが」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)