鐵漿かね)” の例文
新字:鉄漿
眉を落して鐵漿かねを含んで、何んの變哲もない町家の内儀ですが、この燃えるやうな性格と、はなやかに去來する感情の動きを見ると
本堂ほんだうぬかづてて、ちてきざはしかたあゆでたるは、年紀としはやう/\二十はたちばかりとおぼしき美人びじんまゆはらひ、鐵漿かねをつけたり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おちよぼぐちにお鐵漿かねくろをんなは、玄竹げんちく脇差わきざしをて、かうひながら、あかたすきがけのまゝで、しろした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
三十といふ大年増でも眉も落さず、鐵漿かねもつけず、氣が立つと若やぐせゐか、娘々した匂ひの殘るのも、一つの特色でした。
百合ゆりは、薔薇ばらは、撫子なでしこつゆかゞやくばかりにえたが、それよりもくちびるは、とき鐵漿かねふくんだか、とかげさして、はれぬなまめかしいものであつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「待つてまツせ。……おうちでおはん(女房の事)が、……鐵漿かね附けて。……」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
青々とした眉、大きい表情的な眼、小さすぎる唇から、物を言ふ度に鐵漿かねをつけた齒が覗いて、非凡の色つぽさです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ほねのあるがんもどきかい、ほゝゝゝほゝ、」とわらつた、垢拔あかぬけのしたかほ鐵漿かねふくんでうつくしい。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
恰幅の良い四十前後の典型的な町人の内儀で、眉の跡の青さは薄れましたが、鐵漿かねの黒々としたのが、色白の顏を引立てて、中々の好い年増振りです。
「小判なんざ、かけらも出やしません。出て來たのは、古釘と五徳のこはれと、鐵漿かねの壺だけ、これでも金には違ひありませんが、——飛んだくたびれ儲けで」
鐵漿かねだけの半元服姿のお仙は、鏡の前に坐りました。鏡は丸形の白銅はくどう、池田屋の先代の内儀が使つたといふ豪勢なもの、ギヤマンよりも玲瓏れいろうとしてをります。
その時お粂は二十五、出戻りになつてから、鐵漿かねも落し、眉も生やして、元の娘姿にかへりましたが、少しもをかしくないほど、若くて陽氣で、溌剌はつらつとしてをりました。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
嫁の眉は、一方だけ剃り落すと、思はずてのひらで隱して鏡を覗くと言つた川柳の情景詩じやうけいしがあり、七ヶ所から貰つて、最初の鐵漿かねをつける儀式も、いろ/\の民俗詩に殘つてをります。
「いつまでも、眉も齒もそのまゝにして置くわけに行かず、いよ/\七所なゝとこから鐵漿かねを貰ひ、池田屋には女親がないから、阿倍川町から里の母親が來て、眉を落してやることになりました」
まゆ剃跡そりあとがやゝ薄くなつて、卵形の面長、鐵漿かねふくまず、白粉も嫌つて、紅だけ差した片化粧が、この女の場合は、あやしい色つぽさになつて、相手の男に、自分の意志を押しつけようとするのです。