金春こんぱる)” の例文
三十間堀あたりの町娘や、金春こんぱる芸者のひと群が、きっと、なまめかしく桟敷にいて、よけい、「東京」らしい華やかさに濡れそぼけていた。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
折から金春こんぱる某を相手に鼓を打っていたが、その音の烈しさは、いかにも彼のかんのつよい性格を表わしているように思えた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
能役者の方は金春こんぱるの弟の繁二郎という男で始末におえない道楽者ではあるが、商売柄だけにさすがに眼がきいているので、上作の仮面を見つけ出して
半七捕物帳:42 仮面 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
むかし観世くわんぜの家元に豊和とよかずといつて家の芸はもとより、香聞かうきゝにも一ぱし聞えた男がゐて、金春こんぱる流のなにがしと仲がよかつた。
千歳ちとせ女将おかみは、朝詣りの帰りを、呼びこまれた常盤町ときわまち金春こんぱるで、三十分ほど縁喜棚えんぎだなの下でしゃべりこんでいた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金春こんぱる屋敷の知人しりええんとこで話が持てましてね、あっしが甚右を連れて此町ここを通ったのは四つ過ぎてましたよ。
金春こんぱる流の名人、桜間左陣さくらまさじん翁が、見込みのある弟子として骨を折っておしえているというこの麗人が、春日しゅんじつの下に、師翁の後見で「熊野ゆや」を舞うというのであった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
佐保子たちの流儀は金春こんぱるであった。花間金次郎の「道成寺」などを観て、伸子は運動というものをほりつめて精髄だけ凝結させたような古典の芸術を面白く思った。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さきのお二人はわたくしの思い違えでなくば、これより先に亡くなっておられますが、観世かんぜ殿が一昨年、金春こんぱる殿が昨年と続いて身罷みまかられましたのも不思議でございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
能楽上の一大倶楽部クラブを起し、天下の有志を集めて依怙贔屓えこひいきなく金春こんぱる金剛こんごう観世かんぜ宝生ほうしょう喜多きたなどいふ仕手しての五流は勿論、わきの諸流も笛、つづみ、太鼓などの囃子方に至るまで
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
余は旧劇と称する江戸演劇のために永く過去の伝統を負へる俳優に向つてよろしく観世かんぜ金春こんぱる諸流の能役者の如き厳然たる態度を取り、以て深く自守自重じちょうせん事を切望して止まざるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新橋しんばし金春こんぱる屋敷に住んだ屋根ふきで、屋根屋三右衛門が通称である。もとしばの料理店鈴木すずきせがれ定次郎さだじろうで、屋根屋へは養子に来た。わかい時狂歌を作って網破損針金あみのはそんはりがねといっていたのが、後博渉はくしょうを以て聞えた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
金春こんぱるですか。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
金春こんぱる映画館。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
やがて程経て、金春こんぱるの春太郎ねえさんが、すこし、まぶたに泣いたあとを見せながら、豆菊の手をひいて、連れて来た。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さきのお二人はわたくしの思ひ違へでなくば、これより先に亡くなつてをられますが、観世かんぜ殿が一昨年、金春こんぱる殿が昨年と続いて身罷みまかられましたのも不思議でございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
銀座の表通りを去って、いわゆる金春こんぱる横町よこちょうを歩み、両側ともに今では古びて薄暗くなった煉瓦造れんがづくりの長屋を見ると、自分はやはり明治初年における西洋文明輸入の当時を懐しく思返すのである。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一等車の窓の外には、千歳の女将おかみ金春こんぱるの春太郎とが、送りに来ていた。あとの処置はすべてよいようにしておくということ。大隈伯によろしくということ。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日とその頃とのちがいは、ぼくの少年の頃の尾上町二丁目界隈は、関内芸妓の狭斜の町と織り交ざっており、日進堂の並びにも「金春こんぱる」だの「千代本」だのという御神灯ごしんとうの格子先が幾軒もみえた。
板新道へ出る、金春こんぱるをつながって歩く、行く先々で、飲みだした。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)