野人やじん)” の例文
匹夫ひつぷ野人やじんの如く飽くまで纏綿つきまとつて貴嬢を苦め申す如き卑怯ひけふ挙動ふるまひは、誓つて致しませぬ、——何卒、梅子さん、只だ一言判然はつきりおつしやつて下ださい
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
朝臣ちょうしんとなり、転じて自由党に参加して野人やじんとなり、代言人となった彼は、自由民権といい、四民平等ということに、どんなにか血をかしたのであろう。
媒妁は滅多に公会祝儀の席なぞに出た事のない本当の野人やじんである。酒がはじまった。手をついたり、お辞儀じぎをしたり、小むつかしい献酬けんしゅうの礼が盛に行われる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
結局彼は、文学の野人やじんであった。彼には伝統も不要であった。彼の文学の興味は非常に筋書的な線的な興味で、性格描写なぞにはてんで情熱がわかなかったのであろう。
スタンダアルの文体 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
野人やじん、礼をしらず、剣を帯して、殿に昇り、なお、甲胄かっちゅうの兵を、院庭に忍ばせておくなど、言語道断であります。よろしく、典刑てんけいを正し、厳科げんかに処すべきものでしょう』
すなわち通人粋客に対して、世態に通じない、人情を解しない野人やじん田夫でんぷの意である。それよりいて、「ひなびたこと」「垢抜のしていないこと」を意味するようになってきた。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
野人やじん蟷螂たうらうあり、をのげて茄子なすかたきをつ、ひゞきさときぬたにこそ。朝夕あさゆふそらみ、みづきよく、きりうす胡粉ごふんめ、つゆあゐく、白群青びやくぐんじやうきぬ花野原はなのばらに、ちひさき天女てんによあそべり。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「私はあえて言うが、」と議員は言った、「アルジャン公爵やピロンやホッブスやネージョン氏など決して野人やじんではないです。私はこれら哲学者たちの金装の著書を書棚に持っているが。」
野人やじん、礼にならわず。はなはだ失礼ではありますが……。」
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
野人やじん本位をもつ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
田夫でんぷ野人やじんと呼ばれる彼らのうちには、富貴の中にも見られない真情がある。人々は、食物を持って来て玄徳に献げた。またひとりの老媼おうなは、自分の着物の袖で、玄徳の泥沓どろぐつを拭いた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)