くに)” の例文
小野さんは隧道を出るや否や、すぐ自転車に乗ってけ出そうとする。魚はふちおどる、とびは空に舞う。小野さんは詩のくにに住む人である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてこの恍惚こうこつたる場面は、わたしが今そこへ向って急いで出かけようとしているあの真の夢のくにのもっと奔放な光景に、わたしを適応させているのだ
わが父はさびしきひと、富み富みて失ひしひと、傲りかに育ちふるまひ、五十路過ぎよ、くにを離れて、年老ゆと、心弱ると、すべなみと子らにらしぬ。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
たまに早仕舞いをしたときは銭湯へ行ってゆっくり手足を伸ばしてくるか、隣家の紺屋へ遊びに行って同じくに生れの婆様から昔話ムカシコをきくのが、このうえない安楽だった。
鴻ノ巣女房 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
何しろ米の出來るくににゐる田舎者ゐなかものが、こめの出來ない東京へ來て美味うまめしあり付かうとするんだからたまらん………だから東京には塵芥ごみが多い。要するに東京は人間の掃溜はきだめよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
見知らぬくに音信おとづれの様に、北上川の水瀬みなせの音が、そのシツトリとした空気を顫はせる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「日本というものは、私に取っては空想のくにでしたからね」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「来年のお正月には二人で揃つてくにへ帰らうね。」
やぶ入の前夜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
くにへ帰ったという気持がした。
日本婦道記:糸車 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
黄泉よみくにでは
わが父はさびしきひと、富み富みて失ひしひと、傲りかに育ちふるまひ、五十路過ぎよ、くにを離れて、年老ゆと、心弱ると、すべなみと子らにらしぬ。
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
想界に一瀾いちらんを点ずれば、千瀾追うて至る。瀾々らんらん相擁あいようして思索のくにに、吾を忘るるとき、懊悩おうのうこうべを上げて、この眼にはたりとえば、あっ、ったなと思う。ある時はおやいたかと驚ろく事さえある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「日本というものは自分に取っては空想のくにでしたからね」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)