道成寺どうじょうじ)” の例文
……扱帯しごきつないで、それにすがって、道成寺どうじょうじのつくりもののように、ふらふらと幽霊だちに、爪立つまだった釣身つりみになって覗いたのだそうです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「出しものは道成寺どうじょうじだ。勧進帳かんじんちょうを出したのは、興行師ざかたらから、断わりきれない頼みだったんだ。そのこたあ、おとねだって知ってたのに。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
芝居の早変りといふ事は幾らか能の道成寺どうじょうじなどから思ひついたかも知らぬが、しかしこれも先づ芝居の発明といふて善からう。(七月三日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「それでこそ、そうお聞きなさるも無理はない。清姫様というのはね、それ、能狂言にある道成寺どうじょうじ……安珍清姫あんちんきよひめというあの清姫さまでございますよ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今後ともよく考えて対策をこうじてみましょう。小松原こまつばら道成寺どうじょうじに、法海和尚ほうかいおしょうという、ありがたい御祈祷をして下さるお坊さんがいらっしゃるのです。
三社祭さんじゃまつりの折お糸は或年踊屋台おどりやたいへ出て道成寺どうじょうじを踊った。町内一同で毎年まいとし汐干狩しおひがりに行く船の上でもお糸はよく踊った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いきましたよ」と云って栄二は左手の指を一本ずつ、手拭で念入りに拭いた、「——おととしと同じ道成寺どうじょうじ、よく飽きねえもんだって、おどろきましたよ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安珍は逃げ場に窮して、日高ひだか郡にある道成寺どうじょうじにのがれ、救いをもとめた。寺僧は彼のねがいをいれた。ただちに、僧をあつめて、大鐘を下し、その内に、安珍を納した。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
歌舞伎座の狂言は近松の「関八州繋馬かんはっしゅうつなぎうま」を桜痴おうち居士が改作した「相馬平氏二代譚そうまへいしにだいものがたり」を一番目にえて、そのほかに「道成寺どうじょうじ」と「雁金文七かりがねぶんしち」というならべ方であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
豊雄はじぶんのために人に迷惑をかけてはすまないから、己は怪しいものの往くところにいて往くと云った。庄司はそれをとめて、小松原こまつばら道成寺どうじょうじへ往って法海和尚ほうかいおしょうに頼んだ。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
洒落しゃれ切った税というもので、いやいや出す税や、督促を食った末に女房にょうぼの帯を質屋へたたき込んで出す税とは訳が違う金なのだから、同じ税でも所得税なぞは、道成寺どうじょうじではないが
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの謡曲の「三井寺」や、長唄ながうたの「娘道成寺どうじょうじ」の一節に
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
世人はそれを「道成寺どうじょうじ」に見たて、彼女を白拍子しらびょうし一葉とし、他のものを同宿坊と言伝えたほどであった。それは二十九年一月のことである。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
道化の面の男。般若はんにゃの面の男。後見一人。お沢。(或男のめかけ、二十五、六)天狗てんぐ。(丁々坊ちょうちょうぼう巫女みこ。(五十ばかり)道成寺どうじょうじ白拍子しらびょうしふんしたる俳優やくしゃ。一ツ目小僧の童男童女。村の五、六人。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大蛇おろちの息をかぐような気持がします、あの女にそばへよられると、道成寺どうじょうじの鐘のように、私の身が熱くなって、ドロドロにとけてしまいそうなんでございます、眼がまわります、苦しうございます
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
道成寺どうじょうじの火事だというから」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
またひとつは英吉利イギリスで上村大将にい、その力にてバッキンガム・パレスで、日本劇を御覧に入れたこと——たしかそのおり貞奴は道成寺どうじょうじの踊の衣裳のままで御座席まで出たとおぼえている。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
……その頃北に一人、向うへ廻わして、ちと目に余る、家元随一と云う名取りがあったもんですから、生命いのちがけに気を入れて、舞ったのは道成寺どうじょうじ。貴方、そりゃ近頃の見ものだったと評判しました。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巫女 座頭俳優ざがしらやくしゃ所作事しょさごとで、道成寺どうじょうじとか、……申すのでござります。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)