遁込にげこ)” の例文
鎮守の神主殿は、あの境内の大樟おおくすへかじりついたと申しますなり、妙蓮寺の和尚様は、裏の竹藪たけやぶ遁込にげこみましたと申します。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誠にあれ怜悧りこうな者でなア、此処へ遁込にげこんでから、わしが手許を離さずに側で使うてる、私が塩梅あんばい悪いと夜も寝ずに看病をする、両親が無いとは云いながら年のかぬのに
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しからん。鳥の羽におびやかされた、と一の谷に遁込にげこんだが、はかままじりに鵯越ひよどりごえを逆寄さかよせに盛返す……となると、お才さんはまだ帰らなかった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云うと往来の者はどやどやあとへ逃げる、商人家あきんどやではどか/\ッと奥に居たものが店の鼻ッ先へは駈出して見たが、少し怖いから事に依ったら再び奥へ遁込にげこもうと云うので
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぐッすり寐込ねこんででもいようもんなら、盗賊どろぼう遁込にげこんだようじゃから、なぞというて、叩き起して周章あわてさせる。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁切だとって書附を放りつけて出て来たら、小兼め、あとから追掛おっかけて来やアがって仕方がねえ、よんどころなく大津の銚子屋へ遁込にげこんで見ると、まだ二三人も客が居るに彼奴あいつがぎゃア/\狂人きちげえのようになって
成程、暴風雨あらしの舟が遁込にげこんださながらの下駄の並び方。雪が落ちると台なしという遠慮であろう。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
堕胎だたいをしたものは刑法の罪人だといえば、何の事かもとより分らず、お前巡査につかまってろうへ入れられなけりゃならないといえば、また二十五座へ遁込にげこんで躍るというであろう
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多勢に一人、あら切抜けた、図書様がお天守に遁込にげこみました。追掛けますよ。やりまで持出した。(欄干をするすると)図書様が、二重へ駈上かけあがっておいでなさいます。大勢が追詰めて。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飜然ひらり路地へお蔦が遁込にげこむと、まだその煙は消えないので、雑水ぞうみずきかけてこの一芸に見惚れたお源が、さしったりと、手でしゃくって、ざぶりと掛けると、おかしな皮の臭がして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
声を揚げてみんな笑った……小さいのが二側ふたかわ三側みかわ、ぐるりと黒くかたまったのが、変にここまで間をいて、思出したように、遁込にげこんだ饂飩屋の滑稽な図を笑ったので、どっというのが、一つ
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むこうへ駈出かけだして、また夢中で、我家へ遁込にげこんでしまいました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と鼻声になっている女房かみさん剣呑けんのみを食って、慌てて遁込にげこむ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)