追懸おっか)” の例文
この筆法をもってすれば、情婦いろから来た文殻ふみがら紛込まぎれこんだというので、紙屑買を追懸おっかけて、慌てて盗賊どろぼうと怒鳴り兼ねまい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と小兼は跣足はだしで駈出しながら、半治さアん/\/\待ってお呉れようー。と山坂を駈下りて追懸おっかけます。
女が急にオフェリヤになって、柳の枝へのぼって、河の中を流れながら、うつくしい声で歌をうたう。救ってやろうと思って、長い竿さおを持って、向島むこうじま追懸おっかけて行く。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けだもののね、恐ろしいものに追懸おっかけられて、お前さんと、お雪さんと抱き合って、お隣の井戸の中へおっこちたのを見て、はッと思って目が覚めたもんだから。……
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無理に兄弟の縁を切って西浦賀の江戸屋を立出たちいでますと、小兼が跣足はだし谷通坂やんつうざかまで追懸おっかけて参った処までお聞に入れましたが、こゝに真堀の定蓮寺と申すぜん申し上げた
とこの度は洋燈ランプを片手に追懸おっかけて、気も上の空何やらむ足につまずき怪し飛びて、火影に見ればこはいかに、お藤を連れて身を隠せしと、思い詰めたる老婆お録、手足を八重十文字にくくられつ
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬「はい今追懸おっかけて返して上げようと思って居たが、是ですか」
つるとは申せど、尻を振つて泥鰌どじょう追懸おっかける容体ようだいなどは、余り喝采やんやとは参らぬ図だ。誰も誰も、くらふためには、ひんも威も下げると思へ。までにして、手に入れる餌食だ。つつくと成れば会釈はない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(そ、その森の中、垣根越、女の姿がちらちらする、わあ、追懸おっかけて来た、入って来る……閉めてほしい。)と云うで、ばたばた小窓などふさぎ、かっあかるくとも参らんが、すすけたなりに洋燈ランプけたて。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
素見ひやかし追懸おっかけた亭主が、値が出来ないで舌打をして引返す……煙草入たばこいれ引懸ひっかかっただぼはぜを、鳥の毛の采配さいはいで釣ろうと構えて、ストンと外した玉屋の爺様じいさまが、餌箱えさばこしらべるていに、財布をのぞいてふさぎ込む
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)