迂散うさん)” の例文
隠宅ながら、見識ばった門番が迂散うさんくさそうにするのに、二分にぎらせて、玄関にかかると、この関門は、なかなかむずかしい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
門番に聞いてみると、迂散うさんな奴等は見なかったと主張するし、ここではまた店の中に客がおるのに飾窓に奇妙なものを張りつけて行くし——
昨日まで迂散うさん臭い顔で紙衣裳を眺め、触つてみようともしなかつた房一は、いよいよ着こむときになると案外な度胸を示した。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
彼女は桑をみに来たのか、寝間着に手拭てぬぐいをかぶったなり、大きいざるを抱えていた。そうして何か迂散うさんそうに、じろじろ二人を見比べていた。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして——たしかあずかる、決して迂散うさんなものでない——と云つて、ちゃんと、衣兜かくしから名刺を出してくれました。奥様は、面白いね——とおつしやいました。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
迂散うさんに思われるはごもっともでござるが、われらがご案内いたそうとするは、われらのお頭の館でござってな……」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
盲人で迂散うさんな職業の者ということになるから、なんぼ標準語の権威でも、そう呼ぶには忍びなかった。略して「おかみ」といえばもちろんさらに悪い。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ネジ廻しかね」向うづちを振上げた男は迂散うさんそうな顔をして、森君を見ながら、「明日の朝出来ますだよ」
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
階段の下には例の三人の刑事が、仁王立になっていて、するどい眼玉をギロつかせ、いちいち客から招待状を受取り、おまけに迂散うさんくさそうにジロジロ顔を見た。
本堂の廊下には此処ここ夜明よあかししたらしい迂散うさんな男が今だに幾人も腰をかけていて、その中にはあかじみた単衣ひとえ三尺帯さんじゃくおびを解いて平気でふんどしをしめ直しているやつもあった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の眼に映ツた豊艶ほうえんな花は少しづつ滲染しみが出て來るやうに思はれるのであツた。おふくろは迂散うさんらしい顏で、しげ/″\周三の顏をみつめてゐた。間も無くお房は銭の音をちやらつかせる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そこで兵士は、迂散うさんくさそうにじろじろ見すえてから
そして——たしかに預る、決して迂散うさんなものでない——と云って、ちゃんと、衣兜かくしから名刺を出してくれました。奥様は、面白いね——とおっしゃいました。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のみならず、周囲の卓子テエブルを囲んでいる連中が、さっきからこちらへ迂散うさんらしい視線を送っているのも不快だった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
本堂の廊下らうかには此処こゝ夜明よあかししたらしい迂散うさんな男が今だに幾人いくにんこしをかけてて、の中にはあかじみた単衣ひとへ三尺帯さんじやくおびを解いて平気でふんどしをしめ直してゐるやつもあつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「おい兄貴迂散うさんだぜ」女勘助が怒るようにいった。「肝腎のいい訳をしねえじゃあねえか」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
駿河台するがだい保命館ほめいかんに御出でしょうと思います」書生は迂散うさんくさそうに答えた。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
やがて眉をしかめると、迂散うさんらしい眼つきをして、「来てくれるなと云うのはわかるけれど、来れば命にかかわると云うのは不思議じゃないか。不思議よりゃむしろ乱暴だね。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう彼女の眼から見ると、この家の主人の司馬又助が、迂散うさんに思われてならなかった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
素戔嗚は岩角にたたずんだ儘、迂散うさんらしく相手の顔を見やつた。実際この元気の好い若者がどうして室の蜂に殺されなかつたか? それは全然彼自身の推測を超越してゐたのであつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
造酒は迂散うさんだというように、黙って話を聞いていたが、不承不承に頷いた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
途々通りちがう菜売りの女などが、稀有けう文使ふづかいだとでも思いますのか、迂散うさんらしくふり返って、見送るものもございましたが、あの老爺おやじはとんとそれにも目をくれる気色けしきはございません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と猪右衛門は迂散うさんらしく右近丸と民弥とを、かたみがわりに見やったが。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どんなご用でございましょう?」迂散うさんらしく眼をひそめた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
検事は、すると、迂散うさんらしく、私の顔を見詰めましたが
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お待ち」と勘右衛門は迂散うさんくさそうに云った。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)