たしな)” の例文
たしなみ深く何んにも言いはしませんが、その眼は驚異と好奇に燃えて居ることは疑いもありません。私は然しそんな事は眼にもかけぬ態度で
「そちには何もわからぬとみゆる。ははは、なまもの知りより、あどけのうてかえってよい。したが、そちのたしなみとするは何ぞ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たしなめるように云って、お妙は上衣を引取ひっとって、あらわに白い小腕こがいなで、羽二重でゆわえたように、胸へ、薄色を抱いたのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、その代りにたしなみの方ではまざりつなしの画家ゑかきにならうとして、いろんな物を食べ歩いた。
しかし、さすがは武家の女房で、生れ落ちるからたしなみを教わっておりますから、そのうえ騒ぎ出すようなことはしません。
、緋の法衣ころもを着たでござります、赤合羽ではござりません。魔、魔の人でござりますが。」とガタガタ胴震いをしながら、たしなめるように言う。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むかしのように、膝へのせて、駕籠のうちへ抱え入れたいほどな母性の愛をそのひとみにあふれるほどたたえながら、老母はかえって、こうたしなめるようにいった。そして
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしむき今日あたりは、飛石を踏んだまま、母様かあさん御飯、と遣って、何ですね、唯今ただいまも言わないで、とたしなめられそうな処。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、さすがは武家の女房で、生れ落ちるからたしなみを教はつて居りますから、その上騷ぎ出すやうなことはしません。
青物屋とか酒屋とか、ちょっと其処そこらへ小買物に出るのでも、彼女は身綺麗なたしなみを怠らなかった。いや、貧しくなればなる程、墨江は細心に、薄化粧うすげしょうや襟元に気をつけた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「殿様、作法の仕込みのと仰しゃいますが、それが、三千石の大身のたしなみでいらっしゃいましょうか。少し静かに、私の言う事も聞いて下さいまし」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あとで人に見られて恥かしくないようにたしなんでいたんだわね——そして隙さえあれば、直ぐに死ぬ気で居たんでしょう、寝しなにお化粧をするのなんか。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その爲めには、青年に交り青年的な生活をし、青年特有な會話を使ひ、裝身洗顏の點まで、緻密なたしなみを怠らずにゐたので、もう五十餘歳になつてからでも、誰もそんな年齡とは氣づかずにゐた。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
あまりの事に私は、たしなみも忘れて、美しい顔を魅入られたように見詰めて居りましたが、漸く気が付いて
ちょいとたしなめるような目をした。二人で仲よく争いながら、硝子盃コップを取って指しました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たしなみの一腰ひとこしを差し代えて参ります故——』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ところで、いよいよ城明け渡しだ。武士のたしなみ、その辺を取片付けて掃除だけでもして行こう。——森三は? お、まだ物置に窮命中であったな、ハッハッハッ」
となぜか、わけも知らない娘をたしなめるように云って、片目を男にじろりと向け直して
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『そんなはづい。そんな、おまへ、』とたしなめるやうにひ/\飛上とびあがつたのであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この不気味な好者すきものを迎え乍ら、さすがにキャッともスウとも言う者の無いのはたしなみでしょう。「それ殿様」と電気が伝わると、毛氈を滑り落ちて、下々の者は青草の上に両手を突きます。
教頭をちょいと見れば、閑耕は額でめつけ、苦き顔して、その行過やりすごしたしなめながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちとたしなめるように言うと、一層頬辺ほっぺたの色をくして、ますます気勢込きおいこんで
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さそくのたしなみで前褄まえづまを踏みぐくめた雪なす爪先つまさきが、死んだ蝶のように落ちかかって、帯の糸錦いとにしき薬玉くすだまひるがえると、こぼれた襦袢じゅばん緋桜ひざくらの、こまかうろこのごとく流れるのが、さながら、凄艶せいえん白蛇はくじゃの化身の
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)